Book Reviews (マイブック評)

-A Memoir- András Schiff “Music Comes Out of Silence” Weidenfeld & Nicolson October 4, 2023

Such a delight to read András Schiff ‘s memoir! He has tremendous humor and sharp mind to tell us his stories. He goes through many fascinating episodes which was recorded in the conversation between Sir Schiff and Martin Meyer. This conversation is in the first part of this book, and the second part contains Sir. Schiff’s […]

異邦人(いりびと) 原田マハ August 24, 2023

古都京都を舞台に、「美」への果てしない追求と愛憎絡まる人間関係。そして、最後に大きな秘密が明かされ、全てが陽光の元へと曝け出される。今までに沢山読んできた原田さんの、どの小説とも似て非なる御本に、最初は戸惑うも、次第に根底にある「美」への比類ない愛情に、納得。日常を超えた、超お金持ち「お嬢様」菜穂の、これまた超わがままな態度から始まる京都暮らし。その中で、様々な人間関係が交差し、菜穂の人生スタンスが見えてくる。情熱というのは恐ろしくも、美しい。神秘的な京都の街を舞台に、ストーリーが二転三転。最後のどんでん返しを誰が想像しただろう。

鞠子はすてきな役立たず 山崎ナオコーラ August 24, 2023

再びの登場!私はこの本を「座右の銘」とし、枕元に常に置く事としました。現実に、鞠子の様に生きられる幸運な人は稀であるかもしれないけれど、「必要」ではないと思われる事を、人生の主軸とする生き方。良いじゃないですか!鞠子の「趣味」の定義も素敵。「働かざる者食うべからず」を幼少期から父親に叩き込まれた小太郎と結婚した鞠子。他者には優しく、でも自分の軸はブレない鞠子の生き方に、最初は戸惑う小太郎。しかし、次第に。。。乞うご期待!「他人がどう思うか」に惑わされて、SNSの動向に一喜一憂する貴方。鞠子の生き方に触れてみませんか。

文豪お墓参り記 山崎ナオコーラ 文春文庫 August 13, 2023

これを読みながら、少し前にパリの墓地で、音楽家の墓碑を巡ったことを思い出した。ええー!こんなに有名な作曲家が・・という風に、結構寂れて朽ち果ててしまったお墓も少なくなかった。園内は、ほとんど誰も歩いていなかったが、演奏旅行中の夫と二人、興奮しながら、一人一人大事にご挨拶をして廻った。結構な数の有名音楽家が葬られているのだ。もしご興味があれば、是非。 閑話休題。そう、この本は日本の文豪お墓まいりでした。私の大好きな、ナオコーラさんが、時には御夫君と、時には母君と、名だたる文豪のお墓まいりをして、その町の美味しい物を食するのが、テーマである。彼女の文豪への思いが、墓参日記と共に、綴られている。日本の風物詩としても、素敵な文章である。私の父方は、青山墓地、母方は浅草の墓地で、小さい頃には、良く両親、もしくは、祖母に連れられて、墓参をしたものである。不思議にその時々の風景が、結構鮮明に心の中に記録されている。お墓を洗ったり、お酒を撒いたり、お墓の周囲を掃き清めたり、とても日本らしい美しい伝統ではないかと思う。西洋には日本の「お盆」のような考え方はないので、亡き人を忍んで集まる、という様なことはない。私も夫の父が亡くなった時に、とても不思議な気持ちがしたものだ。宗教が違うから・・、という理由だけではないと思う。

ロマンス小説の七日間 三浦しをん 角川文庫 August 13, 2023

やっぱり、三浦しをんさんって、天才。現実(というか、現代の話)と中世のロマンス・ストーリーを並行させて進めていく、とても斬新な手法。現代が中世に深く影響することもあれば、その逆もあり。実は、現代の話の中の主人公が、中世の物語を訳しているという、不思議な関係でもある。この訳者、時に自分に起きた恋沙汰を、自分が訳している物語に大いに反映させてしまう。つまり、訳している原本を勝手に変えてしまうのだ。このが、最高でもあるのだけど・・でもでも、作者三浦さんの優しさに溢れる、素敵な御本ですよ。いやいや、面白く読ませて頂きました、本当に。

山崎ナオコーラ 可愛い世の中 June 8, 2023

山崎ナオコーラ、スゴシ!この本を再び読んでしまった。彼女の本を読むと、独善的な価値観に囚われて、どれだけ損をしている人が多い事か・・と、つくづく思う。結婚式の準備に奔走する豆子の話なので、「通常」の形式で行けば、この本は恋愛小説というカテゴリーに入るのだろうけれど・・とんでも無い。経済小説、はたまた人生の指針を突きつけられる厳しい物語とも言える。ただし、痛快なのである。どこまでも、痛快。笑うのである。ははは!彼女の刺激レベルに慣れると、他の本が生ぬるく感じて物足りなさを感じますね。辛さと同じ。私の敬愛する山崎ナオコーラ大師匠の御本、是非手に取って下さい。

猫を棄てる 村上春樹 文春文庫 April 29, 2023

短編の中に、村上さんのお父様への想いが詰まっている一冊。所謂「昭和」を思い出させるイラストが、興を添えている。猫を一緒に海岸に捨てに行った思い出から、お父様の生涯を紐解いていく。長い年月親子関係は余り良好では無かったと理解しているが、お父様の亡くなる少し前に和解したと、記されている。文庫の帯にもあるように、ああこういうご家族から村上春樹は産まれたんだなあ、と「血」の不思議、「縁」の不思議、そして必然を感じた。

職業としての小説家 村上春樹 スイッチ・パブリッシング April 29, 2023

村上さんの自叙伝的エッセイ。でもご本人が強調していらっしゃるように、村上春樹さんは、真の小説家です。と言う事は、小説としてこのエッセイも書いているかもしれませんね。閑話休題。このご本を読むと、村上さんが一冊一冊にどれだけ精魂を込め、推敲に推敲を重ねているのかが分かります。さりげない文章を生み出すために、推敲を重ねる。音楽を作る事にとても似ています。そして世間で言う「職人仕事」にも通じますね。ご本人がおっしゃる様に、10年くらい続ける事は出来るかもしれないけれど、30年、40年というスパンで一線で活躍し続けることは、並大抵ではありません。そして、ご自分のスタイルを確立し、それを貫いているところも素晴らしい。新人賞を取った後、プロ作家として歩む事を決意した時に、調子に乗っていた「ジャズ喫茶」を手放す決断も潔いですね。私だったら、「ジャズ喫茶店主の作家」みたいなタイトルで活動を始めるかもしれない・・でも私にも、(私事ですみません)いくつか人生で大事な選択をした事があり、それは今でも自分の誇りになっています。この本は小説家を目指す人の指針にもなるだろうけれど、「一度きりの人生への向かい方」みたいなものへの、エールにもなると思います。

2020年の恋人たち 島本理生 中央公論新社 March 13, 2023

母親の死後、32歳の前原葵が、男性遍歴(日本語で便利な言葉ですね)を重ね、自立していくお話しだ。東京の中でも、私が今でも比較的分かっている地域が舞台になっていて、そこは読んでいて楽しかった。この本の中で、1番気に入った言葉は「無理矢理握りしめていた偽物の保証のほうが、ずっと不安を生んでいたって・・」「偽物の保証」、素敵な言葉で、言い得て妙ですね。大昔に読んだ曽野綾子さんの小説で、やはり若い女性が次々と男性に好かれる話を、題名も忘れてしまったけれど、何故か思い出しながら、読んでいました。こんなに短い期間に、個性的で素敵な男性陣に大モテの葵。出会ったばかりの居酒屋の店主とスペイン旅行をしたり、ちょっと無理があるかなあ・・・ でも、お話し自体は大変面白く、一気に読んでしまいました。はい、流行作家は凄いです。

もっと塩味を!林真理子 中央公論新社 March 13, 2023

いわゆる、Based on the True Story で、もちろん有名なシェフのお話しです。でも主人公は、その妻の美佐子。パリで、ミシュランの星を獲得することを夢見て、全てをかけて奮闘した女性、美佐子。「恋に生きた」と言えばかなりカッコ良いけれど、そんな綺麗事ではない、凄まじい世界を生き抜き、最後は若くして癌でこの世を去った。最初、和歌山で裕福な家庭の主婦だった一女性が、「料理」に憑かれ、当時珍しかったフランス料理の魅力の虜に。子供も家庭も捨て、東京に出ていく美佐子。そこで出会ったシェフとの人生を歩み始め、最初に日本のレストランで成功。次にパリに出店計画を立てるものの、バブルが弾け、サポートを失う。。。凄い女性だ。きっと近くに寄ったら、そのエネルギーでこちらが溶けてしまったであろう。現実的に、美佐子に親近感を得ることは出来ないけれど、読んでいてとても面白い本であることは、間違いない。林真理子さんの御本ですから、ね。