Book Reviews (マイブック評)

最後の皇帝と謎解きを 犬丸幸平 宝島社 April 15, 2026

中国の歴史に疎い私でも、清朝の廃帝、溥儀については、折に触れて知る機会があった。この本を読むことで、更に興味が増し、映画「ラスト・エンペラー」を再び観てしまった。「数奇な運命を辿った」という言葉が、これほどピッタリ来る人も他にいないだろう。贅を尽くした暮らしから、獄中生活まで、歴史の波に翻弄されながら、最後は北京植物園の庭師として勤務し、1967年に61年の生涯を閉じた。この溥儀が紫禁城に幽閉されていた時代を、ミステリーにしたのが、本作品だ。日本人の水墨画帝師、一条剛が幽閉されていた溥儀と接近。そこから、物語は始まる。中国名の登場人物が多々出てくるが、その名前が類似しており、エキゾチックと言えば良いのだが、物語を不必要に難解にしているように思った。類似した名前の宦官達が、ミステリーを解く上で重要な位置を占めているので、度々善人と悪人がクロスしてしまうことも・・・ 中国の歴史が大好きな人にとっては、たまらない一冊だろうし、又私のように触発されて、この本を飛び出し興味を広げる場合もあると思う。犬丸幸平さん、2026年「このミステリーがすごい」大賞、おめでとうございます。  

原田マハ 板上に咲く MUNAKATA: Beyond Van Gogh  幻冬社 March 25, 2026

棟方志功さんは、私の憧れの芸術家で、1985年に開かれた没後10年を記念した東京国立近代美術館での展覧会に、行っている。そこで買った作品集は私の宝物で、沢山引越しをしてきたけれど、今でも大切に私の手元にある。この本を読みながら、何度も作品集を眺め、改めて、棟方志功さんの度肝を抜く才能に圧倒されている。その稀に見る才能を支えた妻・チエさんが、この本の主人公だ。その二人の出会いから再会、そして棟方さんの大プロポーズと、話は第二次大戦以前の青森から始まっていく。東京に出てきてからは、近所の草むらに生えている雑草を食事にしながらの大苦労もしたが、棟方一家はいつも明るい。無象の愛に包まれている。そこには、棟方志功の天性のユーモアがあり、チエさんの大輪のような笑顔があったと思う。 この本は、棟方志功が、「ワあ、ゴッホになるッ!」と宣言した時から、「Beyond Van Gogh」になるまでの、なるべくしてなった軌跡が、妻・チエさんの目線から、素晴らしく描かれている。そして原田マハさんの、芸術への尽きない愛情が、文章の奥から溢れ出てくるのである。是非、彼の素晴らしい作品も一緒に見ながら、読んで頂きたいです。

バリ山行 松永K三蔵  講談社 February 12, 2026

久しぶりに日本に帰国して古い友達に会うと、コートの季節になると、温かろうが寒かろうが、厚手のコートを着ていない私を、奇異な目で見る。きっと、そんな私と一緒にいるのが、恥ずかしいと思うのかもしれない。人様にご迷惑をかけている訳ではないので、何でなのだろうなあ、とつい思ってしまう。私にとっては、南極に行くような長いダウンのコートを着て、暖房の効いた電車に乗っている方が、ずっとご苦労様だと思うのだが、日本の枠組みの中ではそうでもないらしい。 この作家のスタンスは、素晴らしいではないか、と私は純粋に思う。純文学を書く事に、気負いがない。我が道を、一直線に進んでいる。多分どこにでもあるような日常を切り取り、MEGADETHと戦い、そして「バリ山行」へと立ち向かう。波多君は、どこか作者の半分身くらいかもしれない。文体の切れ味も良く、読むことについ夢中になってしまう。六甲山は、エベレストではない。しかし、エベレスト以上の力を発揮することもある。「バリ山行」、とても面白かったです。 改めて、「考える事」の素晴らしさ、楽しさを思った。「考えること」は、一日で出来ることではない。運動やピアノの練習のように、積み重ねていくものだと思う。発想の羽を大きく広げ、今日も沢山どうでも良い事をカンガエテ、楽しく過ごそう! 松永K三蔵さま、芥川賞受賞、おめでとうございます。これからのご活躍、楽しみにしています。

希望の糸 東野圭吾 講談社 February 8, 2026

東野圭吾さんは、常に第一線を走り続ける作家。とても稀有な存在であろう。加賀恭一郎と松宮脩平の従兄弟コンビで、何冊の素晴らしいミステリーが産み出されたことだろう。この本も、その一冊。大変面白く読ませてもらった。これでもか、これでもか、と次々に謎が投入されていくが、基本線がブレずに、頭の中でミステリーを構築していける。刑事の正義だけではなく、ニューマニテイも社会性もしっかりしている。人の五感に訴える最高のミステリー作品。是非、手に取って読んでみて下さいね。

東野圭吾 2著「あなたが誰か殺した」講談社「禁断の魔術」文藝春秋 October 20, 2025

東野圭吾さんの大ファンである私は、ご著書を読みながら幸せな時間を過ごした。「あなたが誰かを殺した」では、エンターテイナーの東野さんの才能が全開!ストーリーは、ツイストに次ぐツイスト。いつも「あれっ!」となる。でも、良ーく考えて、真剣に文章の合間を探っていくと、こうかなあ、という余裕を持たせてくれるのも、東野さんの素晴らしいところだ。別荘地のイラストがあるのが、とても良い。日本のミステリー本に、人物相関図がついていたり、マップがイラストで付随するのは、日本的なサービス精神だと思う。痒いところに手が届くという、あれ。食堂のサンプルのあり方に、ちょっと似ている気がして、私は大好きだ。 「禁断の魔術」は、ガリレオ先生の出番。短編4つが収められている。第4章の「猛射つ うつ」は、記憶が正しければ、ドラマか映画になったような気がする。東野さんのエンジニアとしてのバックグラウンドが、発揮されるガリレオ先生シリーズ。今後も、ガリレオ先生の研究室を訪れていきたいです!

町田その子 月とアマリリス 小学館 October 20, 2025

町田その子さんの、素晴らしい新作。もちろんサスペンスの要素が強く、それ故にこの本が何倍も面白くなっていることは間違いない。けれど、その根底にある「人間ドラマ」があるから、サスペンスが活きている。長編だが、ストーリーに引きずられ、本から離れられなくなった。(ピアノの練習の合間に、時間みつけて読みました。。)こんなに人間て、醜くなれるんだ、と思えた私は、幸せ者かもしれない。共存、依存、他者支配。。重要な登場人物の一人、伊東美散がこんな事を言っている。 ー私は卑屈なの。余裕がなくて自分に自信が持てなくて、僻みっぽくて浅ましい。そのくせ、こだわりも強いんだ。誰でもいいわけじゃない。好きな人から好かれたい。物欲しげな顔をしてるのが、相手に伝わるんだと思う。だからいつだって、好きな人に好きになってもらえないー 残酷だが、真実をついてくる言葉だ。そして、彼女はこうも言っている。 ー私はね、やっと分かったと。ひとはひとで歪むんよ。その歪みをどこまで拒めるのかが、自分自身の力。私は無力でばかやった。いつも歪みを受け入れることが愛やと思ってたし、そうすることで愛されようとしてたんよ。ー ある時、主人公、もうひとりの「みちる」、の姪が絵画教室で描いた絵について、みちるはこう思う。 ー自分の「多分」で描くのは「ほんとう」を見失ってしまう。何回も試して、「ほんとうのかたち」を探す。 心に刺さる言葉だ。そしてライターについての自分を見失いかけた「みちる」に、元カレ編集者、宗次郎はこう言う。 ー記事ってのは、ちかちか瞬くくらいの光なんだ。だから届けられないこともあるし、気付かれないこともある・・・でも、瞬きを絶えず繰り返せば、確かな光になる・・・おれたちは・・・声をあげ続けていくしかないんだ。立ち止まっている暇なんてないんだ・・・ー そして、本の後半で、「焼け野原から新芽が吹くように、哀しみの中から幸福を願う芽が生まれたのだ」と導く。町田その子ワールドにどーんと浸り、しばらく立ち止まってしまった私。でも、すごいパワーの降臨を受けた。何人の人がこの本の中で命を落としたことだろう。尊い命が、とても醜く・・でも、その死が、幸福を願う芽にとって変わる過程を私達は共有する。      

向田理髪店 奥田英朗 光文社 September 22, 2025

こういう小説を読むと、日本独特のコミュニティにホームシックを感じる。奥田英朗さんは、私の大好きな作家だが、最近手に取るチャンスがなく、久しぶりの「奥田節」を堪能。札幌から車で一時間くらいの小さな町、苫沢町が舞台で、この町で起こる人間ドラマが、「向田理髪店」店主の向田康彦目線で、語られる。この町の人達は、老若男女、清濁併せ呑む。人の助け方を知っている。人の愛し方を知っている。でも、私の住む巨大なアメリカにも、こういう素敵な人達がいることも、私は知っている。

スピノザの診察室 夏川草介 水鈴社 September 22, 2025

スピノザの診察室は、現役の医師が、厳しい医療の現場を、温かく、かつ現実的に、そして静かな語り口で書いた、我々を導いてくれる物語である。カッコ良い「医師像」は、出てこないかもしれない。日々の患者との、さりげないやりとり。患者の最後に立ち会う、静かで、でもとてつもなく大きな心。淡々と、医師道を全うする、マチ先生。雄町哲郎(マチ先生)の独り言のような、この一言が私の心を打った。 ー理屈の複雑さは、思想の脆弱さの裏返しでしかない。突き詰めれば「生きる」とは、思索することではなく行動することなのである。ー マチ先生と人生の最後の時間を共に出来る人は、幸いである。

Malice: A Mystery by Keigo Higashino – Minotaur Book September 15, 2025

It is one of the few books I have read in both Japanese and English. I am a big fan of Keigo HIgashino, and I would say I have read most of his books in Japanese, including this book. Higashino has been one of the leading authors in Japan, especially in the mystery category. He […]

Rough Ideas by Stephen Hough – Picador September 15, 2025

I enjoyed reading his essays. Stephen Hough is one of the leading pianists, performing about 80 concerts a year in prestigious venues and collaborating with amazing musicians. And he writes, composes and paints! He writes mostly around music in this book from the viewpoint of a musician. Of course we have to remember his extraordinary […]