Book Reviews (マイブック評)

プリンセス・トヨトミ 万城目学 文藝春秋 September 28, 2024

一度読んでみたいと思っていた、万城目学さんのご本。ついに手に取りました!彼の小説は、「ファンタジー」というカテゴリーに入るらしいのだけど、小説は一般的に「フィクション」な訳ですから、「ファンタジー」の捉え方が、イマイチはっきりしない私です。SFとも違い、やはり「日常的に起こり得ないことを題材にする」とでも解釈すれば良いのでしょうか。本とは関係のなさそうな問題点なのですが、私にとってここが重大ポイントなんです。 このお話しには、2点異なる設定があり、その一つが会計監査院という国が予算が正しく使われているかをAuditとする機関、そしてもう一つが大阪を舞台とする歴史ファンタジーとも言うべき浪速の人達とその心意気、である。登場人物とその描写、人間関係の葛藤などは、とても面白く読むのだか、何故かこの2つの設定が接近し、交わってくると、私には何故か面白さが半減してしまう。スーパー現実とスーパー非現実が、私の中で相容れないのかもしれません。想像力の欠如かもしれないし・・という訳で、こういう「ファンタジー」物、私は苦手な事が分かりました。でも万城目さんのご本にハマる人は多いと聞いているので、これは単に個人の問題かと。どうぞ、皆さんも手に取ってみて下さいね。食わず嫌いにならないように!

古くてあたらしい仕事 島田潤一郎 新潮文庫 August 28, 2024

この本は、日本滞在中に必ず訪れる「青山ブックセンター」で、私の目に留まった本。本好きには、たまらないエッセイ集ではないだろうか。「ひとり出版社」という言葉があるのを、この本で知った。島田さんの経営する会社、「夏葉社」がまさにそれで、島田さんは、会社を立ち上げた当初から、一人で全てをこなしている。ご自分の作りたい本、ご自分が信じる本作り。大きなビジネスではないけれど、「仕事」として、自分と家族を養う収入源というコンセプトだ。とても緻密でないと、出来ないと思う。そして、心配りが出来る事。そして、その心配り、優しさに、重きをおける事。「本を読む」意義について、島田さんは随分と紙面を割いて語っていらっしゃるが、私の気持ちとして、それの全てに同意する事はない。でも、おっしゃっている事は、とても分かる。現代のスピード感覚、ネット社会で、我々は必要のないところで神経をすり減らし、それに気づく時間も持てぬまま、時代の波に押し流され、とても疲れている。島田さんのご本の中で、本を読む、本を作ることだけでなく、生きる指針の端っこを見つけられるかもしれない。 ふと、アメリカで、夏葉社のような本作りはあるのかなあ、と思った。何故かと言えば、とても日本的で、そして日本人にあった趣きに感じたからだ。

さくらえび さくらももこ 新潮文庫 August 28, 2024

この本は、「クラシック」の仲間入りと言っても過言ではないと思う。もしくは、一家に一冊、以前の「家庭の医学辞典」のような本ではないだろうか。日常のさりげない出来事を、笑いに変えて、世代を超えて我々読者を楽しませてくれる。父ヒロシ、息子、母、お馴染みの登場人物が、紙面いっぱいに活躍する。枕元に一冊置き、どんな一日であったにせよ、この本を開き一つエピソードを読む。まさに「チチンプイプイ」。肩の力が抜け、悩んでいる事が、どうでもよくなるかもしれない。是非、お読みください。さくらさんは深く惜しまれて夭逝なさったけれど、我々を楽しませるために、ご自分の身を削っていたのであろうか。

52ヘルツのクジラたち 町田そのこ August 11, 2024

この本は、日本からの帰りの飛行機で読みました。52ヘルツの声で話すクジラたちがいると言う。その声は、余りに高く、仲間のクジラには聞き取れない。つまり、誰にも言っている事が分かってもらえないという事。だから、仲間に入れてもらえず、常に孤独。全てから「サヨナラ」する覚悟で、祖母の残した田舎の家に越してきた貴瑚が、自分を投影する少年「ムシ」に出会う。彼らの声は、クジラ界の52ヘルツ。誰にも届かない。でもそれで良い訳がない。辛い虐待問題が、根底に流れ続ける。でもそこに僅かな光が差し、その光が段々と明るくなっていった。愛を欲する人間が、裏切られ、傷つき、強くなり、幸せの入り口を見つけていく。2021年の本屋大賞、第1位。

わたしの美しい庭 凪良ゆう August 11, 2024

登場人物が、それぞれの章で、自分を語っていく。「幸せに決まった形なんてないんだから。」登場人物の一人、神主の「統理」の言葉です。この言葉に要約されているかなあ、この本。 屋上庭園を舞台に、その隣にある「縁切り神社」御建神社がキーポイントとなり、人間模様が繰り広げられる。屋上庭園の下は、神社が経営するマンション。そこの住民、皆、何か過去があり、問題がありで、時には、「縁切り」をお願いする事もある。こんなシェア・ハウス的生活、良いなあ、と思わせてくれる。凪良ゆうさんの独特の視点で語られる、幸福のあり方。私は、好きです。

「憎らしい彼 美しい彼2」 凪良ゆう August 11, 2024

この本は、日本への行きの飛行機で、私のお供をしてくれました。ボーイズラブのお話です。時にひっそりと、飛行機の座席で、涙してました。無口で変わり者扱いされている「平良」と、その彼が全てを捧げて崇拝するスーパー美形の「清居」。高校生の頃からのクラスメイトの二人が、恋人になって行く様。「平良」は、実は隠れ美形です。崇拝されている「清居」は、その地位を喜びながらも、実は崇拝ではなく、愛して欲しいと願う。「平良」は自分を下男化し、「清居」に自分を捧げる事を喜びに感じており、その二人の温度差が、確執を産む。幾多の困難を経て、分かり合っていく二人。美しい感情表現に、一人涙していました。挿絵が漫画調なので、現実逃避が出来て、逆に楽しめたかも・・最近、凪良ゆうさんの作品にハマっている私。最高に面白かったです。ただし、かなり激しい性表現が出てくるので、それが苦手な方は、避けた方が良いかもしれませんね。

原田マハ リボルバー 幻冬舎文庫 June 27, 2024

ゴーギャンとゴッホの親交から、発想の転換で、アートミステリーが生まれた。原田マハさんは、私の尊敬する作家の一人。今まで原田さんの作風のような形ででアートを広めた作家は少ないし、彼女は誰にでも届くところにアート持ってきてくれた。原田さんのご本はいつもワクワクさせてくれるので、大好きだ。でも、我儘言っている事承知で申し上げますが、今回の作品は、何だかストーリーのもたつきがあり、やたらと長く感じられた。原田さんのゴーギャンとゴッホへの愛情が大きすぎて、こうなったのかもしれない、とは思う。発想が膨らみすぎて、筆がおけなかったのかもしれない。でももう少しお話しがコンパクトだったら、うんと楽しめたのになあ、と思う。

井上荒野 百合中毒 集英社文庫 June 27, 2024

「百合中毒」が発端になって、様々な人が織りなす愛の関係が、交差し始める。逆に家族だから、直接聞き出せない事が山積みになっていく。単純であろうする反面、逆に更に複雑さに拍車をかけてしまう。優しさの裏返しで、誤解を産む。我々の人生に、日々の暮らしに、どこかありそうでなさそうな、お話し。「百合中毒」のポスターの毒毒しさが、目にチラチラしそうだ。

東野圭吾 白鳥とコウモリ 上・下 幻冬社文庫 June 27, 2024

東野さんの多々あるご著書。かなりの量を読んでいると思うのですが、いつも読後に何とも言えない満足感を覚えます。ミステリー作家(こんな単純な枠の中に収めてすみません)として、第一人者として長年続けてこられた理由は沢山あると思いますがが、何と言ってもストーリーの面白さ、読者を引っ張るストーリーの展開性、登場人物の素晴らしい性格設定、そして登場人物への気持ちの深さではないでしょうか。「白鳥とコウモリ」という題名は妙得てずばり!それぞれの鳥の持つイメージが本の主題だと思うのですが、それが逆方向から光が当たるとどうなるのか。表裏一体というのか、人間は表面のイメージで人を判断しやすい、という弱点をついた発想とでも言いましょうか。推理小説としても大変面白いですが、その心理描写の繊細さや人間j関係への深い洞察は、もう推理小説という枠を大きく超えています。長編小説ですが、一気に読んでしまうこと、請け合いです!

凪良ゆう 汝、星のごとく KODANSHA・滅びの前のシャングリア 中公文庫 June 27, 2024

本好きの私、常に本は読んでいるのですが、時間がなくて(言い訳!)、ここのところブック評書けていませんでした。今日、旅先で時間のご褒美があったので、何冊かまとめて書きます! 凪良ゆうさん、最近の私のお気に入りの作家です。何と言っても、ストーリー性が素晴らしい。心理描写が、私の心にずしんと来る。惚れ込んでいます・・「汝、星のごとく」は、2度目の本屋大賞に選ばれた作品です。話は二転三転と、時には全く予期しない方向に進みながら、その根底にある愛の豊かさを、真摯な目で語り続ける。何かに縛られがちな現代人、特にネット社会の横行で心が壊されることもしばしばあるこの時代に、自分の生き方を貫く強さ、自分を認める強さを教えてくれる本。愛の強さを教えてくれる。そして、たまらなく優しい。是非是非、読んで頂きたい作品です。「滅びの前のシャングリア」は、一ヶ月後に小惑星が衝突し、地球が滅びるという、想像もつかない話の設定で、度肝を抜かれます。限られた時間の中で、人間が本性を表し、暴行がはびこり、街が破壊され、今までの価値観がぼろぼろにされていく中、逆に美しさを増し、自信を付け、初めて愛に包まれる生活をする人々が生まれる。状況としては、嘔吐を催しそうになる場面も出てくるけれど、そこにひっかかってはいけません。この本でも、「愛」を語り続ける凪良さん。街がボロボロで、死体がゴロゴロしていても、「愛」です。深いですよ。益々、この作者が好きになりました。