Book Reviews (マイブック評)

ダレカガナカニイル・・・  井上夢人   講談社文庫  6/22/16 June 28, 2016

宣伝文にあるように、ミステリー、SF, 恋愛小説、のすべてを網羅し、合体させた超大作。最初は、お義理的に読み始めたのだけれど、何故かどどっとはまってしまいましたね。お話しは、とてもスローに進むのだけど、心理描写がやっぱり良いのかなあ・・ 惹き込まれてしまいますよ。新興宗教から、母娘の葛藤、どんぞこからの一発逆転恋愛。とても面白く読みました。

5年目の魔女 乃南アサ 新潮文庫  6/11/16 June 11, 2016

これは、単なる女の嫉妬、いじわる、妬み本ではない。誰でもが陥る、魔の領域を、日常の何気ない風景を描きながら鋭く突いていく。又、日本人の特性でもある(良い意味でも悪い意味でも)、他人の目を意識して、その中での「個」を生きる人生。本当は誰も他人の事なんか構っていないのに、あたかも、「見られているような」気になり、「噂されているような」気になり、「対抗意識を持たれているような」気になる思考経路。そういう風に思っている人達は、他人に対してそう感じているかもしれないけど、皆忙しいし、私達、自分の事、自分の家族、自分の周囲の事でいっぱいだ。そして、自分達の幸せを感じるのでいっぱいなはず!この本は、そういう自分が作り上げた「空想」が徐々に「精神のアンバランス」を引き起こし、ドツボにはまっていく、教訓のような本だ。自分をしっかり持ちましょうね。そして、周囲に振り回されずに、楽しく生きましょうね。素敵な事は、身近な場所に転がっていて、しっかり心の目を開いていれば、ちゃんと見えるはず。

天空の蜂 東野圭吾 講談社文庫 6/6/16 June 8, 2016

大変な長編。作者の電気工学のバックグラウンドが、最高に生きている作品だ。そして、東野さんの工学に対する、「愛」というのが、感じられると思う。楽しんでいるなあ、という感じ。現実離れのサスペンス。だけど、「赤い指」に繋がるヒューマニズムが、ひしひしと伝わってくるのも、興味深い。犯人探しの話ではない。作者自ら謎解きは放棄している。焦点は、信念。そして、愛。福島の原発問題を考えると、この話は恐ろしいことに、とても先を読んでいたし、啓発だと思う。

ウインクで乾杯 東野圭吾   祥伝社文庫  6/1/16 June 1, 2016

私の大好きな作家の一人、東野圭吾さん。私の目が、星だらけになっているの、見えます?彼の代表作(私の中では)「手紙」や「赤い指」のような、随分前に書かれた作品もあるけれど、どうしてどうして、天才というのは、その才能をどんな時にも隠しようがないんですね。この本は、お洒落、洒脱、快活。推理小説に必須のおひねり(!)もあって、後を引かれながら、一機に読んでしまいました。

二十四時間  乃南アサ  新潮文庫  6/1/16 June 1, 2016

これも短編集。そして、私小説の要素も含んでいる。乃南さんの伝記ともいえる、今までの人生のエピソードを、時間を区切って、24編紹介している。乃南さんの繊細でかつ、大胆なお人柄が、垣間見られるようだ。人それぞれ、これは譲れん、これはどうしても必要、これは絶対嫌!など、あるけれど、そんな人生の価値の置き所みたいなものが、行間kら読める。

霧笛荘夜話  浅田次郎  角川文庫 6/1/16 June 1, 2016

大変抒情的で、状況描写が美しい短編集。横浜の丘にある情緒あふれる古いアパートの住人達の物語。私のお気に入りは、第4話の瑠璃色の部屋。浮世絵のようだ。短編集というのは、ドーンと読みたい時には、何だか物足りない気持ちにさせるけど、忙しい時には、一遍ずつ時間がある時に楽しめてとても良い。浅田次郎さんの、美しい文章を堪能して下さいね。

苦役列車  西村賢太   新潮社 5/25/16 May 24, 2016

ななんと、私小説。この言葉自体に、ノスタルジーを感じるのは、私だけか・・ 不思議な世界といえば良いけれど、ここまでぶっちゃらけ感に侵されなくてもなあ、というのが、感想かなあ?でも、何故か、どこどこ読んでしまった。この作家の、新しい方向性というのが見たいですね。自分さらけ出すだけでない、物語りを紡ぎだしたところが、読んでみたい!

邪魔 奥田英朗  講談社文庫 5/13/16 May 13, 2016

引っ張られる小説。とにかくやめられない。いくつものシーンが、最初全くかけ離れているのだけど、次第に絡み合い、最後に向けて音量とスピードが加速していく。そう、幸せの定義にむけて。ジョン・レノンの言葉を思い出した。それはこういうもの。”When I was 5 years old, my mother always told me that happiness was the key to life. When I went to school, they asked me what I wanted to be when I grew up. I wrote down “happy”. They told me I did not understand the assignment, and I told them they did not […]

九月が永遠に続けば  沼田まほかる   新潮文庫 5/1/16 May 2, 2016

この作者、50代になって小説家になったという、遅咲き、だけど、とんでもない才能の持ち主だ。この一冊に、宇宙のすべてが凝縮されているともいえる、人間の根幹を描いた本。最初、ホラーサスペンス大賞を受賞したものの、余り売れず、しかし他に書いた本が注目を浴びると、この本にも関心が集まり、ついに文庫本60万部を突破したとか。東京の電車の中で、どれだけの文庫本が読まれたかと想像すると、それだけで、ホラーな感じがする。「読者界を震撼させた。。」とあるが、文章の構築性、心地良いテンポ、人間関係の複雑かつシンプルな空気感、そして一番大事な、「愛」を、一冊に閉じ込め、いろいろな意味でぞくぞくさせる一冊。題名から想像すると、青春の1ページを描いた感だが(それも多分にあるけど)、永遠のテーマの「人間とはなんぞや?」に迫る、すごい本だ。是非お読み下さい。

下北サンダーズ  石田衣良  幻冬舎  4/25/16 April 25, 2016

これも、いけいけの青春ものだ。下北沢は、青春時代、私の遊び場でもあったので、共感できるところは、いっぱいある。と言っても、昔の面影はないかもしれないけどね。今度日本に帰国したら、是非行ってみよう、っと。下北の小劇団のお話しで、茶沢通りが、背景に出てくる。とっても懐かしい。本当にばか、やったものだ。ある意味、若いってことは、バカをやる特権のようなものだから、そういう意味、私は青春を謳歌した訳ですね。ご迷惑をかけた方々には、この場を借りてお詫びします。「下北サンダーズ」は、ちょっとカッコ良すぎるかもしれない。だって、どんどんと出世しちゃうから。でも、人間関係の、ハチャメチャさは、とっても素敵。ノスタルジーに浸った本でした。昔を懐かしむようになったら、おしまいだ。