Book Reviews (マイブック評)
港の風景が、とっても生き生きしていて、べらんめー調の語り草が最高だ。日本のいろいろな港へ、船を使って行くというのが基本で、そこからエッセイーが生まれてくる訳。つまり、船に乗る行為に、切羽詰った理由はない。ただし、乗ってしまう。奥田さんの、ほわーーーんとした感じがとても良い。奥田さん、決っして無理をしない。でも、観察眼鋭し。知らないうちに、港町旅情に引きずりこまれる、私でした。
うわさの「ソロモン」、大長編である。1部が約700ページ強ある。旅がいろいろあったので、飛行機の中で結構読めるなあと、思っていたのに、それでも、読破するのに、一ヶ月近くかかってしまった。中学生が、ある事件をきっかけに、立ち上がり、その同級生の謎の死に、まっこうから向き合う。そして、裁判という形で、真実を明らかにしていく。このような大長編で、しかもミステリーの要素もあるお話は、構成に一体どれくらいの時間を費やすのだろうか。そして構図を作り、そこから物語が出発する訳だが、ストーリーが展開するにつれ、きっと登場人物達が紙面からはみ出してしまう事も。作家の気持ちが、書き進むにつれ構成時からずれて行ったり、様々な困難、葛藤があるに違いない。その辺をどのように収拾しながら、一本道を貫き、書き進めるのかな??すごい心理戦で、ストーリーも大変面白いのだが、一点文句をつけさせて頂くなら、中学生にいくら頭が良いとはいえ、これだけの実行力、判断力、バイタリテイーがあるだろうか??まあ、とにかくすごい本です。ご期待あれ!
音道貴子シリーズの一冊。これも短編集で、全部でこちらは、6編。もちろん、音道さんの出てくる小説だから、サスペンスで、所謂推理小説なのだが。不思議に普通の短編も出て来て、それが何だかとても新鮮。え、これって推理小説じゃないの??、という感じになるのだけど、それが又、面白い。音道の活躍は今までにも沢山拝見しているけれど、今回は違った顔を見せてくれる。音道貴子のファンなら是非読んでください。
まさに、「幸せになりたい」と切望する女性達のための短編集。そこは天才の乃南さん、単純な幸せではない。恨みがあり、仕返しがあり、裏切りがあり、見込み違いがあり、恐れがあり、それも深い深いところで、様々な怨念が渦巻く。人間とは、何と大変な生き物か。全部で、7編のお話しが入っているが、そのどれとして、似た手法がなく、短いながらも、山あり谷ありで、面白い。こんな心情になるのは自分にも良く分かる、と、読みながら思う方が沢山いらしゃるような気がするのだが・・。
久しぶりの東野さんの小説。優しさに溢れた、サスペンス小説。もちろん殺人事件が起こるのだけど(一つだけでなく、ね!)、その謎解きだけでなく、東野さん大骨頂の、心理性を読み解いていく方式。現在の事件を解いていくに従って、昔の事件に行き着く。家族の愛情がずんずんと身にしみるお話し。
これも精神に支障を持った殺人者のお話し。「変身妄想」という病名が本当にあるのかどうかは分かりませんが、「ある特定の人物に憧れ、彼・彼女を模倣したい、あの人のようになりたい」という願望から始まり、自分が誰だか分からなくなる、精神障害。この「変身願望」と「恋愛願望」を同時に描く(もちろん違う登場人物だけど)、恋愛サスペンスとでも言うのでしょうか。主人公のゆかりの行動については、普通だったら、こんなことは絶対しないぞ、など若干疑問がもてないこともないけれど、電話線(古いコンセプト、だけど書かれた年代がはっきりしないのでOK)を通じての恐怖が、本の全編にヒソヒソと漂う。現在のネット社会の恐怖に比べれば、もしかしたら、救いようのある恐怖かも、と思う、携帯べったりの私です。
「どんでん返しに続く、どんでん返し。恐怖の連続殺人事件の中に潜む、深い謎。あなたは、今夜眠れますか。」とでも、宣伝文句にしたい小説だ。ネット交際の以前にあった、テレクラが出てきて、普通の顔をして生活している「一般市民」が、その仮面の下に病的願望を潜ませている。又、「エリート警察官」の病んだ精神がもたらす、恐怖もありで、まあ怖いお話しであること間違いなし。男性の歪んだ性的願望が、リアルに描かれていたりして、乃南さん、本当にいろいろな顔を持っていらっしゃる。ドコドコと、読み進んでしまう本ですよ。
なかなかウイットに富んだ、そして核心を突いた短編集。ちなみに「悪魔の羽根」というのは、あの真っ白い雪の事。ここからしても、只者じゃあないぞ、という気にさせるでしょ!一つ一つの短編に、すっごく濃い人間ドラマが凝縮されている。どれ一つ取っても、長編の題材に出来るんじゃないだろうか、と思わせるくらいの、濃縮感だ。作曲もそうだけど、言いたい事を上手くまとめ切らず、だらだらと長く、退屈で、飽きる作品というものがある。だが、「才能」、もしくは自分で努力して開花させた才能というものはすごく、曲の長短に関わらず、楽曲が自然に聞いている側に、入ってくる。それぞれのフレーズが、いかに複雑な和声であろうと、無理なく、恰も昔からそこにあったかのように、流れて行く。文学と音楽の関係・・深過ぎるテーマは、又次回に。
これはちょっと「軽い」作品かなあ、と思って読み始めたところ、文体は軽めだけど、中身はぐぐっと濃い。30才を目前にした幼馴染の女性二人が、繰り広げるお話し。この本の中で好きな、詩的なフレーズ:「吐き気のようなものがこみ上げてきて、それが目から滴になって落ちた」。表現に、躍動感があるみたい。女性のうちの一人、栗子(通称、グリコ)は、恋、恋愛、結婚、母になることを夢見る、29歳のOL。その友人菜摘は、レズビアンでバーを経営する。この二人が、恋をめぐり(もちろん違う恋人だよ!)、葛藤し、だまされ、はめられ、誤解し、30代に突入するお話し。豪快で、大層面白く、かつ核心を突いている。もう、乃南さんの本は、読み始めると止められなくなるから、大変だ。
これは、一日を24時間に区切り、それぞれの時間にまつわるエッセイ集。この本でも、乃南さんの、洗練された語り口がページをめくる度に、見え隠れする。例えば、「二十時」の話しの中に、こういう表現が出てくる。会社の同僚と一夜を会社で過ごす回だ。そこで、一緒にオフィス街の銭湯に行った折のユニークな同僚を指して「生渇きの髪がA子の通勤服の背中を濡らしている。風呂上りというより、彼女はほとんど、溝にはまって這い出してきた死に損ないのような有り様だった。」この文章を何度読んだことだろうか。その度に、脱帽、そして転げまわって笑う私。このエピソードは、フォークグループ”かぐや姫”が「神田川」を歌っていたころのことだと思う。だから、尚更可笑しいのかなあ、それにしても、この適切な表現。熟考して出てくるものじゃあないと、思う。才能ですね、。どの時間にも、美しく、可笑しく、時には悲しいエピソードが、溢れている。豊かな心を持った作家だなあ!と、心から実感した。