Japanese Blog (日本語のブログ)

さくら 西加奈子 小学館 12/4/17 December 4, 2017

このひたむきさ、深くて純粋な愛、何で、こんな物語が書けるのだろう。。西さんが、若い時に父親から「産んでくれって頼まれて産んだ訳じゃあないから、自分の好きな事をやりなさい」と言われたというエピソードを読んだことがあるけど、こういう直球的な愛に育まれて育ったことも、大きくあるでしょうね。とにかく、この本には、ひたすら感動しました。5人の家族と一匹の犬「さくら」の物語りに。大業に構えずに、しかし真実をとことん追求する姿勢。どんな状況にいようとも、愛さずにはいられない家族達。日本の原風景に、彼女の「帰国子女」的視点が絡み合って出来た、最高のお話しです。

劇場 又吉直樹 新潮社 11/24/17 November 24, 2017

若いって良いなあ。こういう暮らし、やっぱり若くないと出来ないと思う。他人に対しても、自分に対しても、こういうハチャメチャな真剣さ。私は今でも、一生懸命ですよ!でも、違うんだなあ。。裏付けなしの理論、自己中心度の高さ、携帯の時代になっても「神田川」の世界。ああ。。そして、主人公の行動半径が、東京鉄道・地下鉄路線図のカラーに沿って、動く、動く。私は、アメリカにもう20年以上住んでいるけど、いまだに渋谷から下北当たりの道並みは、良く覚えています。だから、とても身近に感じてしまいましたよ。 又吉さん、ロマンチスト!最後の数ページの愛の言葉は、涙なしには読めませんでした。永くんの優しさが、一杯詰まった、最高のフィニッシュです。

だから荒野 桐野夏生 毎日新聞社 11/24/17 November 24, 2017

「だから荒野」とは、まさに言い得て妙な題名。人生、見回すと荒野だらけ。ちょっと箱入りの妻が、家庭の荒野に我慢がならなくなり、奔走。そこから、更に深い荒野を見、どん底まで行ったところで、一辺の光りを探り当て、這い上がる強さを身に着けるお話し。ここまで、お人好しな、ある意味守られて来た「奥さん」というのも、なかなかいないとは思うけど、中年女性へのエールとも言える小説(かなあ??)。面白い視点だと思うけど、何か現実的にしっくり来ず、かと言ってファンタジーでもなく。。。桐野さんの御本は大好きなのだけど、今回は心にガツンと来ず!

Variety Hideo Okuda 奥田英朗  Kodansha 11/7/17 November 6, 2017

奥田さんの短編集。作家ご自身もおしゃっているように、最後の「夏のアルバム」は、超傑作。涙なしには、読めません。今思い返しても、涙が出てくる。。。どういう心を持っていると、こういう美しい物語が紡ぎ出せるのかしら。「俺は社長だ!」「毎度おおきに」は連作。会社を始めた中年男性の、あがきと自信と愛と、そのすべて。しかし、これを読んで奮起して会社を辞めてしまわないように。あくまでも、お話しです。でも、とっても素敵だけどね。「ドライブ・イン・サマー」は、ハチャメチャなアンテイック喜劇。最高です!「住み込み可」は、哀愁たっぷり。「セブンテイーン」は、優しさが怒りに勝るという事かな。これも、ほっこりします。この本も、大推薦です。気持が洗われる、と気楽に言うけれど、日々泥まみれになり、生きている人間にこういう本は良い。とても良いです。是非、手に取ってみて下さい。

向田理髪店 奥田英朗  光文社 11/6/17 November 6, 2017

すっかり、奥田英朗さんの本にはまっている私です。この本も最高!北海道の札幌から2時間ほど離れた、過疎化一途の苫沢町のお話し。向田理髪店の店主、康彦の周りで起こる様々な事件、人間模様、恋愛風スキャンダルが、奥田さんの素晴らしいユーモアと執筆力で、描かれている。笑いあり、ペーソスあり、涙ありの、まさに「日本」の原風景なのだ。こういう小説を読むと、日本が懐かしくなります、本当に。でもこれは現実ではない!お話しだ。それに私は、「東京」出身。それも、少なくとも4代目の江戸っ子!向田家とは、180度別方向出身なのでね。それにしても、奥田さん、ファンが多いでしょうね。日本人は、やっぱり寅さんが好きだからね。これは、超お薦めの本です。

ナオミとカナコ  奥田英朗  幻冬舎 11/6/17 November 6, 2017

これをミステリーとして読むなら、多分及第点を上げられないと思う。だって、殺人のトリックや準備が余りにずさんで、読みながら、本を蹴っ飛ばしたくなるくらいだから。でも、DVを焦点に友情物語として読むなら、結構カッコ良い。最後の章は、ジェームス・ボンドも顔負けの、派手なアクションで攻めてくれる。こちらも、息がつけない。途中、ずさんな(すみません!)殺人計画に、頭に湯気が上り、途中棄権しようかと思ったけど、読破して良かったです。スカッと、気持ちがしますよ、最後のページを閉じた時は!

抱く女  桐野夏生 新潮社 10/18/17 October 18, 2017

最後の数ページで、涙が溢れて、止まらなかった。この主人公のモノローグのために、250ページが必要だったんだと思う。感動で、しばし動けなかった。1972年の学園紛争、浅間荘リンチ事件を背景に、物語は進んでいく。主人公の三浦直子は、ノンポリ学生。浮き草のように、その時代を浮遊している。どんな男とも寝るから、「公衆便所」扱いされる。逃げたくてしょうがなかった「家族」への愛、見つけるべくして逢った本物の「男」。そして、最後に来る兄との別れ。途中では、何となく本に入りこめなかったけど、一旦のめり込むと、ぐぐっと心に刺さった。そして、そのささくれが、涙に変わった。感動の一冊です。

Invitation 8人の売れっ子女流作家 文芸春秋 10/1/17 October 2, 2017

8人の当世きっての売れっ子女流作家が、一編づつ出し合った短編集。短編とは言え、それぞれとても読み応えがある。不倫ものあり、ミステリーあり、不思議物語りあり、厭世観たっぷり小話しあり、という訳で、とても楽しく読ませて頂いた。8人の語り部が、夜な夜な私に話かけてくれたように。。。高樹のぶ子さんの「夕陽と珊瑚」、圧巻!最後の数ページまで、上手く私を騙してくれて、思わず一人微笑みましたね。それぞれに感想を書くと、それこそ長編ブック評になってしまうので、ここはカット!いつもながら、「作家」という方々の頭の中、どうなってるのかなあ、としみじみ思いますよ。それぞれの素敵で、かつ、おぞましいストーリーが、どういう工程を経て、文字になっていくのか。まか不思議。これは、大推薦の本です。これを機に、それぞれの作家の本を手に取って見ると、ますます、その作家の世界に入りこめますよ!本、大好き!

空の拳  角田光代  日本経済新聞出版社 9/26/17 September 26, 2017

ノロウイルスにやられ、24時間基本的にはベッドとトイレを往復するしか出来ず、まあこの本を読んだ訳です。病気で眠る事も出来なかったので、益々時間はあったのね!、というのは簡単だけど、ノロの脅威は聞きしに勝るもので、ここでお話しするのも憚られます。閑話休題!題名からもご想像出来るでしょうが、この本は、ボクシングの本です。ボクシング案内、紹介、推奨をやりながら、若き編集者が成長していく様子を描く。でも、ちょっと美しすぎないかい!と思うのは、私がひねくれ者だからでしょうか。出来過ぎ感が、否定出来ないかなあ。。でも、ウイルスに侵された頭で読むには、脳細胞を余り必要とせず、完璧な書物であったとも言えますね!

桜ほうさら 宮部みゆき  PHP研究所 9/26/17 September 26, 2017

これは、本当に長編!読むエンジンがかかるのに、かなり時間がかかった。でも、100ページを過ぎた当たりから、俄然のめりこみ、一気に600ページを読破。江戸の町に住んでいるような気分で、るるるん!と、ページをめくった。主人公の笙之介の、賢さ、優しさ、初心さ、可愛らしさ、頑固さ。。。が、長屋の人々とのやり取り、初めて惚れた商家の娘さんなどと絡み合い、お話しが進む。ミステリーが根底にあるものの、ヒューマニズムがテーマだ。優しさに浸りたくて、素直に微笑みたければ、この本をお読みあれ!貴方も江戸の町にトリップ。べらんめえ!の声が聞こえ、子供たちの笑いが渦巻く長屋に着くはず。600ページの楽しい旅が待っています!