Japanese Blog (日本語のブログ)

炎上する君  西加奈子  角川文庫  8/19/20 August 19, 2020

これは、又、何と、変幻自在、無限のイマジネーション。新しい、西加奈子です。非現実の世界を描きながら、痛いほど、グングン心に届く短編集。フェチ感溢れる「私のお尻」かと思いきや、「ある風船の落下」のように、全宇宙を相手に、壮大なドラマを繰り広げる。改めて、西さんの引き出しの多さに、感服です。又、持ち前の、きっぷの良さや、潔さも、加わり、正に読み応え十分。そして、現実の山崎ナオコーラまで、登場するという、本当に何があっても不思議ではない世界観。其々大変短い8編ですが、そのどれも似て非なるかな。どうやって、編み出しているのか。未だに、ちょっとショック状態から、抜け出せない私です。インパクトの大変大きい短編集。

奇跡の人 原田マハ 双葉文庫 8月8日 August 8, 2020

原田マハさんのご著書で、期待外れという事は、一回もない!というか、毎回、感動である。この「奇跡の人」は、有名なヘレン・ケラーとアン・サリバンのストーリーを、日本の明治に移し、青森県弘前でのお話しにしている。もしかしたら、「いたこ」にヒントを得たのかもしれない。「ボサマ」(津軽地方の旅芸人のこと。多くは、盲人男性で、時として女性・子供も加わり、三味線を弾きながら家々をめぐり、米や小銭を恵んでもらう)かも知れない。津軽地方では、「門付」といい、明治の貧しい時代でも、自分の食べる分を削っても「ボサマ」を助けた。その中には、大変才能のある、ミュージシャンもいたのである。そこから、明治政府における「人間国宝」「無形文化財」の設置という所に持って行き、「ボサマ」の一人、狼野キワが、それを受賞する。そして、キワと、ヘレン・ケラーの日本版、介良(けら)れんとの、友情に持っていく。介良れんは、三重苦で、それを、去場安(さりば・あん)が、強烈な意思で、教育していくのである。去場安は、決して負けない。当時の、最上流階級に属し、9歳の時に、岩倉使節団とアメリカに渡り、22歳までの13年間をアメリカで教育を受け、何不自由ない状況であったが、自身も弱視であったためか、介良れんの教育にのめり込んだ。三重苦の為か、介良れんは自分をコントール出来ずに、6歳で去場安に出会うまで、家族から動物扱いで、蔵に閉じ込められていた。とまあ、ヘレン・ケラーとアン・サリバンのストーリーが、ベースになっている事は、明らかである。しかしそこが、原田マハさんの、才能である。明治の弘前の出来事にしてしまい、それが、何の不自然さもなく、逆に、新鮮でさえある。津軽三味線の音が、どこからなく聞こえて来る、「奇跡の人」。人間の持つ、深い可能性。人間としての尊厳。物語としての抜群の面白さ。是非、読んで見て下さい。

屋根をかける人 門井慶喜    角川文庫  8/7/20 August 7, 2020

最近、この歴史小説という分野にとても惹かれる。歴史上の大人物を題材にしている訳だから、役者に不足はなし。そこに。作家のイマジネーションが入り、「伝記」という枠から大きく離れ、独自の世界観に連れて行かれる。スパイスも熟成も、お好み次第!「屋根をかける人」は、明治にアメリカから伝道を目的として来日したW・M・ヴォーリズの、日本での一生である。一風変わった、しかも世間を少しハスに見る青年が、大事業家へと成長していく過程を、真摯に、かつエネルギー全開で、書かれている。明治の時代から、第二次世界大戦前後の動乱、復興と共に、つまり、日本の西洋化、国際化への道を、外国人(その後日本へ帰化)として、歩んだ。数多の苦難を乗り越え、成功を納めたヴォーリズ。彼は、建築家として、日本津々浦々どこまでも、声がかかれば、家、教会、社屋を建てて、建てて、建てまくった。そして、実業家として、近江兄弟社のメンタム(メンソレータム!)の輸入販路を確立し、日本にメンタムを浸透させたのである。そして華族出身の妻との二人三脚も、素晴らしい。本当に、「話しに困らない」大人物なのだ。しかし、何という事か、私はこの本を読むまで、ヴォーリズという人物のことを、全く知らなかった。門井慶喜は、ヴォーリズと昭和天皇との短い逢瀬(!)から、この感動の一冊を書いた。読み応えのある、長編である。

夢にも思わない  宮部みゆき 角川文庫 1/3/18  August 7, 2020

久しぶりの宮部みゆき。一時はまって、昼も夜も「宮部みゆき」病にかかっていたけれど・・ 90年代の作品だから、学生達の日常が、今と全く違う。コンビニに行って、ガールフレンドに電話をかけたりするし!悪い評判が立っても、それは、クラスルームの中だったり、学校だったりで、ネットの恐ろしさはないし。だけど、人間の気持ちはいつも一緒。そして、日本人特有の性格も一緒。 これは、島崎と僕の探偵物語。陰惨な殺人事件の裏に、見たくない真実が隠れている。中学一年生で、これだけ「深読み」が出来る子はまずいないと思うけれど、設定としては面白いよ。そして、ストーリーの展開が抜群!「日本的な可愛い女子」の弊害と、その「可愛さ重視」の社会を支える、男子の視点と思い。最後のメッセージは、まさに「夢にも思わない」!

相撲は、ドラマだ。8月2日 August 2, 2020

昨日、15日間の7月場所が終了。涙の照ノ富士の優勝が決まった。こちらも、もらい泣きである。どれだけの、困難があり、葛藤があり、ここまで来た事か。。一時は、車椅子での移動に頼っていたという力士が、優勝である。度重なる怪我と再出場を重ね、カド番も何度か経験し、そして、最終的に序二段まで陥落。優勝インタビューで本人も言っていたように、横綱に近いと言われていた大関経験者が、序二段力士として生きる事。その葛藤に勝ち、地道に、自分に負ける事なく努力を重ね、ここまで来た。千秋楽の御嶽海戦に勝った時に、天を仰ぐようなポーズを見せた。とても力強く、良い顔をしていた。同部屋の照強が朝乃山を足取りであっけなく破った段階で、この優勝はほぼ決まっていたのかもしれない。照強の毅然とした物言いに、照ノ富士の援護に回るのは、当たり前という、感があった。 私の中での相撲観戦は、その力士だけではない。親方、その部屋の傾向、同部屋の力士達、相撲中継のアナウンサー、そして解説の親方衆。更に言うならば、部屋の親方の現役時代の取り口など、全てを引っ括めて。千秋楽の十両の巴戦での、立浪部屋の3人の力士達の態度が、その顕著な例だ。切磋琢磨し、お互いに支えながら、毎日を共にしているのが、とても良く分かった。これは、立浪親方の人柄とも、共通していると思う。私は、この3人の友情に、涙。。。北の富士さんが、親方と弟子の関係は、「子供であり、恋人だ」、とおっしゃっていたけれど、ご本人も大横綱で、二人の大横綱を育てたご本人の口から出た言葉は、とても説得力がある。 毎場所の事であるが、場所終了後は、数日「相撲ロス」に見舞われ、ガックリ。同胞のT子女史との、携帯片手にテキスト(日本のラインと同じ)の応酬観戦とも、しばしのお別れである。怪我の力士もいるが、夏巡業が中止なので、ゆっくり静養して、9月場所に備えて欲しい。朝乃山の綱取りも、近いと思う。今場所の経験から、正攻法だけではなく、裏を読み、柔軟に対処する相撲を身に付ければ、鬼に金棒だ。大ちゃんの定年に間に合うかどうか。。立浪部屋の明生が幕に戻ってくる。そして、千代の国が幕下全勝優勝で、関取にカムバック。これにも、涙。。相撲は、ドラマである。9月場所の番付けは、今月後半に発表されるらしいが、それを楽しみに、しばし相撲談義ともお別れです。

常設展示室  原田マハ 新潮社  2/17/20 July 31, 2020

いくつかの絵の周りに起こる人間模様を、重くならずに、真剣に書いている。いつも、ハッピーエンドばかりではないし、騙されることだってある。だけど、絵は嘘をつかない。国際的に活躍している女性もいれば、市役所の隅でひっそりと、業務に励む女性もいる。でも誰もが、自分の中の絵があって、その絵が心の故郷だ。帰っていける場所。私にはそういう絵はないけれど、音楽がある。

あと2日の7月場所  7月31日 July 31, 2020

なな、なんと白鵬の休場、そして、照ノ富士が朝乃山戦を制した13日目。今場所の行方が、更に混沌として来た。当初、朝乃山と照強の今日の一番は、不思議でしかなかったけれど、照強が照ノ富士と同門の伊勢ケ浜部屋の力士という事で、その真相が解明!相撲協会の計らいである。気の強い照強は、援護射撃で、普通の100倍も1000倍も、気を入れて行くに違いない。そして、昨日不戦勝で3敗を守った正代が、照ノ富士と。正代は、我々熟年スモジョに取って、もう目に入れても痛くない存在で、人が良いのか、気持ちが優しいのか、兎に角、気を持たせる存在である。頑張れ!今場所は、正代が鍵を握っていると言っても、過言ではない。そして、チャラ感を一掃した御嶽海が、心底強く、落ち着いた相撲を見せている。又、「元」がつく大関経験者、高安、栃ノ心、琴奨菊の頑張りも見逃せない。つまり、今場所は、近年相撲歴史の中でも、とても充実しているのです! 琴ノ若は、怪我から再出場で、今日は輝と。将来性大の力士なので、無理をせず、大事に後2日取ってもらいたい。大ファンの千代の国は、幕下優勝を前師匠の千代の富士(九重)の命日に、決めた。男気溢れる、千代の国らしい。涙を誘うインタビューであった。九重部屋は、全員師匠の命日に黙祷を捧げたということだが、千代大海(現九重親方)も、心意気がある。九重部屋の千代丸は今場所振るわず、十両陥落か。弟の千代鳳も、十両から中々幕内に戻って来れない。九重部屋の事になると、つい、熱くなってしまうのは、もちろん、千代の富士の大ファンであったから。今でも、心にいつもいる大力士です。 ベテラン妙義龍、玉鷲も、味を見せた取り組みで、両者とも9勝を上げている。小兵の炎鵬、石浦の調子が、イマイチ。兎にも角にも、今場所も2日を残すのみ。ロサンゼルスでの相撲中継が、夜中の12時から2時のため、日中体力温存作戦である。今夜も、ロサンゼルス相撲愛好会で契りを結ぶT子女史と、真夜中、お互いの家で、携帯片手に、熱い感想を交わしながら、相撲中継を楽しもう。(中日にも相撲ブログ書いたので、そちらも読んでね。私のホームページにあります。www.junkopiano.com)

充実の大相撲7月場所 7/25/20 July 25, 2020

毎日、はっきり言って、寝不足です。相撲中継が、ここロサンジェルスでは、夏時間の間は、夜中の12時から2時まで。しかし、熟年スモジョとしては、ライブで見ることに意義有り。ロサンジェルス相撲愛好会の、T子女史と、真夜中携帯片手に(我々の家は約80キロ離れています!)、ああだ・こうだとテキストの応酬。楽しく、時に居眠りしながら、相撲観戦しています。 今場所の充実を、誰が予想したか。コロナ禍の中での観客を入れての開催決定に、海を隔てた私は、大丈夫何だろうかと、老婆心ながら、深く心配していました。しかし、始まってしまえば、もう連日熱い戦いで、5月場所の無開催や、力士の稽古不足の報道などは、何処へやら。上位陣が順調に勝ち進み、幕内復帰の照ノ富士の活躍に、正代、妙義龍、御嶽海が加わり、連日、もう目が離せない!場所直前に引退した、味のある栃煌山には、もうちょっと相撲を取って欲しかった・・心から、現役時代の功労を労いたいと思います。又、佐渡ケ嶽部屋の躍進。現・佐渡ケ嶽親方の現役時代もよーく知っている相撲好きとしては、名門部屋を受け継ぎ、プレッシャーもあったと思うけど、素晴らしい弟子達を育てたと、大きな拍手を送っています。そして、我らの大ちゃん、こと高砂親方。こちらも、現役時代の朝潮を(漫画も含め!)よーく知っているゆえに、朝乃山の今は、親方の力無くしては、ならなかったと、深く思っています。こちらも、大拍手。特に、高砂親方は、横綱を育てた経験があるので、それが凄い強みですね。解説にも、「相撲」・「弟子」への愛が滲み出ており、大ちゃんの解説、私は大好きです。そして、元・大関の4人が幕内にいて、凄く頑張っているのは、他の力士達の発奮材料では?皆、怪我や故障を抱えながら、連日、本気の相撲です。8000キロ離れたロサンジェルスから、拍手送っていますよ!時に、真夜中一人、叫んでいます・・(笑) しかし、昨日の、阿炎関の軽はずみな行動は、錣山親方が、可哀想だった・・北の富士さんが、ご自身のコラムで「不肖の弟子ほど可愛いけれど・・」という事をおっしゃっていたけれど、それにしても、阿炎関は「不肖」が多すぎる!魅力のあるお相撲さんだけに、本当に残念です。明るくて、楽しいキャラを残して、何か行動する前に少し立ち止まって、考えて欲しいですね。 立浪部屋の明生。十両で頑張っているから、早く幕内に戻って欲しい。大ファンの千代の国も、大きな怪我の連続で今は幕下だけど、関取復帰まで、もうちょっと。そして、忘れないで欲しいのが、宇良関。度重なる怪我で一進一退だけど、あの爽やかな相撲が、又幕内で見たいです。頑張って!カド番の貴景勝。状態は良くないんだろうけど、意地を見せています。8勝まで、何とか持ち越して欲しい。 今日で、7月場所も折り返し地点。上位陣は、これから星の潰し合いが始まる。朝乃山は、3場所で3役通過。勢いに乗っているし、兎に角怪我をしないで、無事に階段を登りつめて欲しいです。26歳という丁度良い年齢で、連日、円熟味を増し、相撲にブレがない。大ファンです。  

出会いなおし  森絵都 文春文庫 7/18/20 July 18, 2020

新しい作家との出会い。毎日の中のほんのちょっとした瞬間の出来事から、物凄い物語を紡ぎ出す。特に、お惣菜の中の、カブと大根が間違っていた!という、些細というのも言い難いような事例が、ふかーーーいお話になっているんですよ。とんでもない、作家ですね。ムーミン・ママのストーリーも、これ又、デイープ。こう言ってくればわかるでしょうが、この本、短編集です。まず、素晴らしい想像力、そして、文章力。「テールライト」は、SF風という具合に、引き出しが多い。森さんの本、これからも読みます!

銀河鉄道の父  門井慶喜   講談社文庫 7/10/20 July 10, 2020

不思議な引き合わせかも・・原田マハさんの「たゆたえども沈まず」でのゴッホとの時間の後に、この本。ゴッホも宮沢賢治も、生前は全く売れなかった。だけどゴッホには最愛の弟テオが、宮沢賢治にはその生涯を大きな愛で見守り続けた父がいた。両者とも短命である。しかし、その短い生涯で全て語り尽くした感がある。賢治の父政次郎は、「父親像」に乗っ取って、厳格であろうする。だけど、その愛は無償で、もう手のつけようが無いくらい、真実だ。幾つになっても、どうしようもなく、可愛いのだ。そして心配でしょうが無い。これは、「たゆたえども沈まず」同様、フィクションである。しかし、その題材がとてつもなく魅力的で大きいので、それを自由に作家の中で膨らませることが出来る”小説”は、何と素晴らしい事か。日本人なら多分誰でも知っている宮沢賢治。しかし、父親を通して賢治を見、その家族に触れると、とても新鮮に、生き生きとしてくる。宮沢家の喧騒が、紙面を通じて伝わってくるようだ。涙なしには読めない、感動の一冊である。