Book Reviews (マイブック評)

ふくわらい 西加奈子 朝日新聞出版 12/25/17 December 25, 2017

西加奈子さん、又やってくれました。感動、感動、感動!こんな純粋な物語があるだろうか。鳴木戸定の真っすぐさに、真剣さに、周囲の人間は、そのどはずれた常識感を忘れ、「定の世界」に惹きこまれていく。私もその一人。定、すごい。守口廃尊すごい。てー、すごい。武智次郎、すごい。涙、止まらない! 廃尊の言葉「もっとこう、モヤモヤした、言葉にできないものがあるんだ。脳みそが決めたもんじゃない、体が、体だけが知っているよう、言葉っちゅう呪いにかからないもんがあるんだよ、て、ああ、「言葉にできない」も、言葉なもんだから、ああ、もう、嫌んなるなぁ。嫌だあ。」----句読点の取り方、嘆き方、もう本当にすごい。廃尊が目の前にいて、雄たけびをあげているようでは、ないか。 小暮しずくと定のやり取り。小暮「・・・私そのものを、愛してくれる人がいて、そして、私も愛せたら、そんな素敵なことはない、と思うんです。」定「小暮さんそのものとは、どういうことですか。」小暮「え。」定「小暮さんそのものとは、どういうことなのでしょうか。」小暮「いや、だから、私の顔とか容姿だけでなくて、本当の私のことです。」定「本当の私・・・・。ということは、小暮さんの顔や容姿は、本当の小暮さんではないのですか。」小暮「・・・・そういうわけではないですけど、それがすべてではないですよね。」定「すべてではない。そうですね。でも、小暮さんは、顔や容姿、そして、小暮さんのおっしゃる本当の小暮さんを含めて、小暮さんでよね。」小暮「・・・・まあ、そうですね。」定「ですが、例えば私にとって、こうやって今私と話をしている小暮さんが、すべての小暮さんなのです。」小暮「はあ・・・。」定「小暮さんが、おひとりでいらっしゃるときや、その、さきほどおっしゃった糞の方といらっしゃるときのことを、私は知りません。私が知っているのは、この編集部で働き、今こうやって、私と話をしてくれている小暮さんです。それが、すべてなんです。」----定はこうやって、肩肘張らず、真実に我々を導いてくれる。すごい奴だ。 廃尊との会話での、定の独白「言葉を組み合わせて、文章が出来る瞬間に立ち会いたい、とう守口さんの気持ち、本当に分かります。私はそれが、私以外の誰かが作った、ということに、とても感銘を受けるんです。言葉をそのものを作ったのが誰か分からないけれど、その言葉を組み合わせることによって、文章が出来る、しかも、誰かが作ると、それは私の、思いもよらないものになります。その文章が、言葉が、その人そのものに思えてきます。」---まさに、私の気持ちを代弁してくれている。それも、とても素敵な言葉で・・・。西さん、貴方の編み出す言葉に、私は絡め取られてしまったんです。  

通天閣 西加奈子 筑摩書房 12/15/17 December 15, 2017

「さくら」、「サラバ!」と読み進め、「通天閣」に届いた私。ぶったまげましたよ!西さんの引き出しの多さに。私より世代のお若い西さんなのに、何で私の痛いところ知ってるの?という感じ。例えば、男性の部屋を紹介するくだりに(5ページ)、「スヌーピーの柄のフォーク、カエルが大きく口を広げた灰皿、エリエールテイシュー。。」とあるのだけど、何であんたさん知ってるんや?(私は関西人ではないけれど、つい関西弁風になってしまう)と、つい独り言を言ってしまう。また、アパートのお向かいさんを言い表すのに、「くしゃみをしたらぼとぼとと落ちそうな、ちぐはぐな顔。。」などと、しゃらっと言ってしまう。すごすぎて、ただただ唸るだけの私ですよ。そして泣かせる場面もちゃんと盛り込んでいる。「小さな頃、自転車を漕ぎ出すときはいつだってワクワクした。ぐん、と大きくひと漕ぎしたら、それだけで何か楽しい事が始まるような気がした。冬だって、夏だって。どうしてあんなに元気だったのだろう。「寂しさ」や「切なさ」から、圧倒的に遠い場所で、小さな私はいつまでも自転車を漕いでいた。。。」とんでもなく、美しい表現ですね。涙なしには、読めない箇所です。この本も「愛」が、ページの間を所狭しと埋めています。ああ。。。感動した。

サラバ!上・下 西加奈子  小学館 12/15/17 December 15, 2017

西さんの「さくら」を読んで、心から陶酔してしまったので、「サラバ!」を早速読みました。とても長編ですよ。だけど、物語があれっという間に繋がり、世界にまたがるお話が、すんなりとコネクトしています。「信じるものを自分で見つけろ!」というお話で、ギャーこんなに正直になって良いの?っていうくらい、とても心の奥底まで、ねじ曲がろうと直球だろうと、さらけ出しちゃっているんです。ダメさを出しているようでいて、実はとても強さを感じる登場人物たち。変人で、人間性破壊人物のようでいて、一本筋が通っている。貴子さん、歩君、お父さん、お母さん、貴方達は強靭だ!歩君が、自分を肯定するため他人を否定するという、常套手段人物性から、這い上がるお話と集約出来るでしょうね。そして人間の愛の深さ。深く、深く、とても深い。またしても、西さんのご本に、感動して、涙してしまった。周りを固めるご近所さんや、遠く離れた異国の友、おばあちゃんやおばさんにも、この作者はとても深い愛を注いでいます。それが、「サラバ!」という合言葉に。まだ、西加奈子さんの御本を読んだことがなければ、是非是非読んで下さい。

さくら 西加奈子 小学館 12/4/17 December 4, 2017

このひたむきさ、深くて純粋な愛、何で、こんな物語が書けるのだろう。。西さんが、若い時に父親から「産んでくれって頼まれて産んだ訳じゃあないから、自分の好きな事をやりなさい」と言われたというエピソードを読んだことがあるけど、こういう直球的な愛に育まれて育ったことも、大きくあるでしょうね。とにかく、この本には、ひたすら感動しました。5人の家族と一匹の犬「さくら」の物語りに。大業に構えずに、しかし真実をとことん追求する姿勢。どんな状況にいようとも、愛さずにはいられない家族達。日本の原風景に、彼女の「帰国子女」的視点が絡み合って出来た、最高のお話しです。

劇場 又吉直樹 新潮社 11/24/17 November 24, 2017

若いって良いなあ。こういう暮らし、やっぱり若くないと出来ないと思う。他人に対しても、自分に対しても、こういうハチャメチャな真剣さ。私は今でも、一生懸命ですよ!でも、違うんだなあ。。裏付けなしの理論、自己中心度の高さ、携帯の時代になっても「神田川」の世界。ああ。。そして、主人公の行動半径が、東京鉄道・地下鉄路線図のカラーに沿って、動く、動く。私は、アメリカにもう20年以上住んでいるけど、いまだに渋谷から下北当たりの道並みは、良く覚えています。だから、とても身近に感じてしまいましたよ。 又吉さん、ロマンチスト!最後の数ページの愛の言葉は、涙なしには読めませんでした。永くんの優しさが、一杯詰まった、最高のフィニッシュです。

だから荒野 桐野夏生 毎日新聞社 11/24/17 November 24, 2017

「だから荒野」とは、まさに言い得て妙な題名。人生、見回すと荒野だらけ。ちょっと箱入りの妻が、家庭の荒野に我慢がならなくなり、奔走。そこから、更に深い荒野を見、どん底まで行ったところで、一辺の光りを探り当て、這い上がる強さを身に着けるお話し。ここまで、お人好しな、ある意味守られて来た「奥さん」というのも、なかなかいないとは思うけど、中年女性へのエールとも言える小説(かなあ??)。面白い視点だと思うけど、何か現実的にしっくり来ず、かと言ってファンタジーでもなく。。。桐野さんの御本は大好きなのだけど、今回は心にガツンと来ず!

Variety Hideo Okuda 奥田英朗  Kodansha 11/7/17 November 6, 2017

奥田さんの短編集。作家ご自身もおしゃっているように、最後の「夏のアルバム」は、超傑作。涙なしには、読めません。今思い返しても、涙が出てくる。。。どういう心を持っていると、こういう美しい物語が紡ぎ出せるのかしら。「俺は社長だ!」「毎度おおきに」は連作。会社を始めた中年男性の、あがきと自信と愛と、そのすべて。しかし、これを読んで奮起して会社を辞めてしまわないように。あくまでも、お話しです。でも、とっても素敵だけどね。「ドライブ・イン・サマー」は、ハチャメチャなアンテイック喜劇。最高です!「住み込み可」は、哀愁たっぷり。「セブンテイーン」は、優しさが怒りに勝るという事かな。これも、ほっこりします。この本も、大推薦です。気持が洗われる、と気楽に言うけれど、日々泥まみれになり、生きている人間にこういう本は良い。とても良いです。是非、手に取ってみて下さい。

向田理髪店 奥田英朗  光文社 11/6/17 November 6, 2017

すっかり、奥田英朗さんの本にはまっている私です。この本も最高!北海道の札幌から2時間ほど離れた、過疎化一途の苫沢町のお話し。向田理髪店の店主、康彦の周りで起こる様々な事件、人間模様、恋愛風スキャンダルが、奥田さんの素晴らしいユーモアと執筆力で、描かれている。笑いあり、ペーソスあり、涙ありの、まさに「日本」の原風景なのだ。こういう小説を読むと、日本が懐かしくなります、本当に。でもこれは現実ではない!お話しだ。それに私は、「東京」出身。それも、少なくとも4代目の江戸っ子!向田家とは、180度別方向出身なのでね。それにしても、奥田さん、ファンが多いでしょうね。日本人は、やっぱり寅さんが好きだからね。これは、超お薦めの本です。

ナオミとカナコ  奥田英朗  幻冬舎 11/6/17 November 6, 2017

これをミステリーとして読むなら、多分及第点を上げられないと思う。だって、殺人のトリックや準備が余りにずさんで、読みながら、本を蹴っ飛ばしたくなるくらいだから。でも、DVを焦点に友情物語として読むなら、結構カッコ良い。最後の章は、ジェームス・ボンドも顔負けの、派手なアクションで攻めてくれる。こちらも、息がつけない。途中、ずさんな(すみません!)殺人計画に、頭に湯気が上り、途中棄権しようかと思ったけど、読破して良かったです。スカッと、気持ちがしますよ、最後のページを閉じた時は!

抱く女  桐野夏生 新潮社 10/18/17 October 18, 2017

最後の数ページで、涙が溢れて、止まらなかった。この主人公のモノローグのために、250ページが必要だったんだと思う。感動で、しばし動けなかった。1972年の学園紛争、浅間荘リンチ事件を背景に、物語は進んでいく。主人公の三浦直子は、ノンポリ学生。浮き草のように、その時代を浮遊している。どんな男とも寝るから、「公衆便所」扱いされる。逃げたくてしょうがなかった「家族」への愛、見つけるべくして逢った本物の「男」。そして、最後に来る兄との別れ。途中では、何となく本に入りこめなかったけど、一旦のめり込むと、ぐぐっと心に刺さった。そして、そのささくれが、涙に変わった。感動の一冊です。