Book Reviews (マイブック評)

短編集 2冊 素敵な日本人 東野圭吾・霞町物語 浅田次郎 5/7/18 May 7, 2018

全く異なる2冊の短編集。どちらも、大変面白く読みました。まず、「霞町物語」から。私も遅ればせながら、お相撲を愛する江戸っ子(少なくとも、4代目)。下町ではないけれど、親戚一同ほぼ全員東京です。物語は、古き良き時代の東京。洋画で言えば、イングリット・バーグマンの美しい顔が、ガス灯に霞むような風景。カッコつけしい(完璧に化石化した表現!)の若者の、心温まる日常の数々を描いています。主人公は、写真館の息子、僕。その周囲で巻き起こる騒動と涙。家族の愛。携帯電話の世には起きようもない物語でしょうね。短編集だけど、それぞれに連続していて、昔の写真アルバムをめくっていく感じです。そして、東野圭吾さんの「素敵な日本人」。9編が入っていて、それぞれに全く異なる題材とアプローチ。ミステリーが主体の、大層凝った趣向の短編集ですよ!短いお話の中に、読者を驚かせる瞬間あり、ほろっとさせる瞬間あり、社会現象への定義あり、愛情あり。。と、東野さんの才気があふれています。とても楽しめました。しかし、私の中での東野圭吾と言えば、「手紙」と「赤い指」。思い出しただけでも、涙する、人間の心に深く迫る名作ですね。閑話休題!この短編、2冊、是非手に取って見て下さい。そして、まだ「手紙」と「赤い指」、読んでなければ、こちらも是非読んで下さい。

女の一生 キクの場合  遠藤周作 講談社 3/24/18 March 25, 2018

久しぶりに遠藤周作の本を手に取り、改めて、遠藤文学の深さに感動を覚えている。新聞小説として1980年から81年にかけて、朝日新聞に掲載されたもの。キリシタンを題材にした、朝、新聞を広げた時に読むには、かなり残酷、残忍だと思われる表現も沢山あり、かつ、その「愛」の深さについて、問うた小説。感動、感動。遠藤周作がその生涯をかけて取り組んだ、「日本のキリスト教」。情けなく、狡猾、弱く、みじめな伊藤の「どうしようもなさ」と、その対象にある、強く、一途で、芯がゆるがないキクの清々しさ。キクは、クリスチャンではなく、反発もしているのだけど、何故か大浦天主堂にあるマリア像にいつも語り掛ける。それは、時には「どうしてくれるんだよ!」という批判であり、愛の告白であり、嘆願である。人の人生の長さは、とても限られている。それを貴方はどう考える?どう生きる?

サラダ好きのライオン 村上ラジオ3  村上春樹 マガジンハウス 3/15/18 March 15, 2018

世界の村上が、こういう風に日常を捉えているのか・・・と、不思議な感じがするものの、何故かその「普通さ」に納得するのですね。音楽家も、ステージ上の自分と、日常の自分というのは、かなり違うし、まあそういう事なのかと、思っていますが。しかし、やはり私の中では、どうしても「世界の・・・」という気持が先に立ち、街角で会ってもおかしくない叔父さんというのが、受け入れ難い!相反することを、平気で言っています。すみません。でもきっと村上さんって、几帳面なんだろうなあとは、思っています。「ノルウエイの森」(これは私の大大好きな本です)の中には、アイロンがけのシーンが出てきて、それがとっても自然。見た事もないけれど、村上さんのシャツは、きっとピシッとしているに違いない。確信です!ああ、申し遅れました!この本は、村上さんのエッセイ集ですよ。いくつかとってもチャーミングなものがあるのですが、「献欲手帳」最高!大橋歩さんの挿絵(銅版画)が、良い味を加えているのは間違いなし。貴方も是非読むべし。

光の指で触れよ 池澤夏樹  中央公論新社 3/11/18 March 12, 2018

初めて、池澤さんの御本、読ませて頂きました。そして、とても気に入りました、その世界感に。その精神性と、日本的宗教観。新聞の連載小説として書かれたようですが、読者は毎日わくわくしたでしょうね。そして、同時に重い課題を与えられた事でしょう。夫婦と二人の子供、夫の愛人、その周囲を固める友人達の、真実を求める旅。例えば、主人公の妻が、スコットランドでパーマカルチャーを実践している友人に聞く場面がある。「こういう暮らしって、不安ではないの?もしもジャガイモの収穫がなかったらとか、もしもあそこに嵌める窓枠が見つからなかったらとか、考えないの?」と。すると、友人が「では、どんな暮らしならば不安でないか?何ならば絶対の安心の保証になる?」と言う。そして友人は続ける「外に保証はない。保証は自分の中にしかない。・・・・」この会話には、心底揺さぶられました。今でも、かなりガーンと来ていますね。文体も美しく、その中で漂う精神の会話がとても素敵で、究極を究めようとするも、がんじがらめにならない余裕がいつもある。池澤さんの次の本を読むのが、とても楽しみです。

猿の見る夢  桐野夏生 講談社 3/11/18 March 11, 2018

すべてが、最悪の方向に転がり落ちる!というお話。多分、高慢ちきな主人公が「猿」という訳なんだろうけど、何だかしっくり来ないんですね・・桐野さんの小説には、いつも大感動する私なのだけれど。主人公が、無駄に愚かすぎる!「愚かさ」に可愛気のかけらもなく、かと言ってしたたかさもない。そう、ただの馬鹿中年。だから、何故か読後にも、いつもの桐野さんの小説がくれる、どっしり感が全く持てなかった私です。すみません、こんなに批判してしまって・・きっと、貴方なら、違った感想が持てるのでしょうけれど。

君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい 浅田次郎 文芸春秋 2/22/18 February 22, 2018

流石!浅田次郎さん。本書中、ご自分でもでおっしゃっておられるように、「涙を誘う」エッセイ集です。ご母堂の話や、江戸っ子気質のご家族の話など、ありきたりとは言え、心温まります。もちろん、本書タイトルにあるように「小説家は嘘つき。。」という観点でとらえれば、まさに読者として簡単に騙されている事でもありますけどね!まあ、それでも結構。人生、騙し、騙され。しかし、御本人の生活スケジュールには、頭が下がります。お日様と共に起き、月が出たら(これは私の注釈)就寝という、まさに、日本古来の農耕民族的生活を送っていらっしゃる。私は子供時分から、完全な夜型(小学校3年くらいの時には、既に、夜7時から9時をピアノの練習にあてていたので。これだと、お日様のあるうちに、外で遊べるという利点はあるのですけど、ね!)。競馬関係のエッセイは、雲をつかむような感じで、すみませんが、すっ飛ばしました。しかし、美しい文章を読むというのは、本当に心の糧。大好きな時間です。

A Book “The Complete Correspondence of Clara and Robert Schumann” 2/18/18 February 18, 2018

This is the book I have been wanting to read! There are 2 volumes and it is really a complete correspondence. Eva Weissweiler has edited and Hildegard Fritsch and Ronald Crawford have translated into English. Thanks to my university! They let me have this book for a long period of time. We learn so many […]

「桐島、部活やめるってよ」「何者」 朝井リヨウ 2/3/18 February 3, 2018

朝井リヨウさんのエッセイがとても面白く、その斬新さに感動したので、ご著書を取ってみることに・・「桐島・・」は、2009年の小説すばる新人賞受賞作(著者20歳の時の作品)で、「何者」は、2012年に書かれた直木賞受賞作品。「何者」は、取り敢えず読み通したけど、「桐島・・」は、挫折。「何者」で言うと、多分2012年の時点では、グーグル心理学みたいなものが、目新しかったのだろうけど、2018年1月の時点では、テーマが古すぎの感。現実の自分と、ネット内の自分が一致しない若者は無数にいるし、ネット中毒なんてそれこそ、どの世代にも数知れずいる。私は、自分の紹介がきちんと出来ず(つまり自分の現実の姿を直視出来ず)、「ネット見て下さい」と言った30代の人物に会ったことがある。ネットの中では、大層素敵に作られていたけれど!時代をついたテーマは、普遍性に欠けるから、そこが難しい。それに比べると、「桐島・・」の中では、高校生たちが躍動している。言葉に元気がある。でも、高校生の暮らしだけに焦点が絞られていると、高校生をひと昔もふた昔も前に通過した読者(私のこと)は、どうしたら良いのだろう。高校生の元気に感動し、落ち着くと、その先読み進めていくのに、一苦労だ。朝井リヨウさんは、とってもカッコ良く生きていらっしゃる風で(それこそネット検索の結果)、今後「学生」を題材にしたものを離れ、食事で言えば「飯」の範疇の小説を書かれたならば(もしかしたら、もうあるのかもしれないけれど・・)、再び御本を手に取りたいというのが、本日の感想。おしまい!

きいろいゾウ  西加奈子 小学館 1/22/18 January 22, 2018

再び、西加奈子さん!この本は映画にもなったのだとか・・日本に住んでいないので、知らないことが沢山あるんです。感動の「愛の物語」であるのは、本当に本当にそうなのだけど、音響的でもあるんですね。時に強く、弱く、囁くように、叫ぶように、本の中の字が語り掛けてくる。シンフォニー聴いている感じ。いつも西さんの御本から文章を引用しているのですが、今回も。沢山のお気に入りから選ぶのは一苦労。でもこんな素敵な文章はいかがでしょう。「窓から夜が次々にやってきた。一度入りこむと、それらは堂々と私たちの周りを囲み、そして居座り続ける。私は膝に置かれたムコさんの手に、自分の手を重ねる。眠るのをどんどん先延ばしにしてしまうのだ、こんな夜は。こんな、細くて綺麗な月の夜は。・・・」「メガデス(注:犬の名)は<きゃーっ誰だっけ!?>そんな感じで、尻尾をぶんぶん振ったり飛びついて見せたり、何せ犬らしいことをした。カンユさん(注:別の犬の名)が絶対持ってない類の仕草だ・・・・」「一番上のボタンが取れかかっていることに気付いた。帰ってツマに繕ってもらわなければ、そう思って、自然と笑みがこぼれた。不器用なツマ、白いシャツなのに、堂々と赤い糸で縫ったりするものだから、僕はずいぶん恥ずかしい思いをしなければならないのだ。」 どのページをめくっても、こういう素晴らしい文章に出会う。又、登場人物の名前が、そのキャラクターに、とってもしっくり、そしてユーモアたっぷりなので笑える・・・だから、どんな悲惨で深刻な時も、あっけらかんと出来る。西さんのお御本に、心底入れ込んでいます。

・アイI 西加奈子 ポプラ社 1/15/18 January 15, 2018

自分のアイデンティティーを探すお話し。そして、深い深い「愛」の物語。いつもながら、表紙に使っているご自身の絵もとても素敵!探求の道は険しい、だけど、茨の道の先に、光りが溢れている。溢れているなんてものじゃない、世界中に溢れかえっている。しかし、この「茨の道を乗り越える強さ」を持つ事は、決して楽なことじゃないし、誰にでもある訳じゃない。表面を見れば「お気楽」で「ラッキー」な人が沢山いるかもしれないけれど、それは天から降って来た訳じゃない。そして、幸福は、いつも自分の中にあり、それを育てるのは、自分しかいない。