Book Reviews (マイブック評)

タンノイのエジンバラ 長嶋有  文藝春秋 1/21/19 January 21, 2019

人生の一コマを切り取り、それを丁寧に描ける作家、長嶋有さん。4編の短編からなるこの本。どのお話も、もしかすると、見逃してしまうかもしれない、だけど、とても大事な、とても苦しい、だけど、とても素敵な、そんな人生の一コマを、描いている。オンラインに翻弄される時代、こういった時間空間が、とても貴重で、特別だ。オンラインの生活が普通になってしまった現在、情報も溢れ、ちょっと素敵なウェッブページも平凡になり、人は次から次へと「興奮」を求める。「自分であること」を持ち続ける大変さもあるけど、それが出来た人が人生の光を見つけて行くと思う。そういった方向性を差し出してくれる、本です。

夕子ちゃんの近道 長嶋 有 新潮社 1/8/19 January 8, 2019

私も日本に居た頃は、行きつけの居酒屋があって、何となく仲間が集まって、家族っぽくなったりして居た。日本的な空間というか、空気感というか、チマチマと言うと語弊があるかもしれないけど、半径10メートルくらいの中で起こる日常が、描かれているこの本。片側が5車線くらいあるフリーウエーがバーンと走っているアメリカ暮らしの中にいると、遥か彼方の物語に見える。とっても、素敵なのだけれども。日本人にはやっぱり「裸の付き合い」とか、「隣組」とか、「町内の回覧板」とか、が似合うなあ。だjけど、日本に帰国する度に思うのは、ちょこっと旅人で行くと、町はごちゃごちゃしているものの、「人間味」とか「温かみ」に触れるのは困難だと言う事。以前にも書いたけど、「故郷は、遠くにありて思うもの」とは、言い得て妙。日本の友人たちからも、「家族」の難しさについて聞かされるし・・・映画「万引き家族」然り、血の繋がりとは関係ない密な関係が、求められている時代なのだろう。「夕子ちゃんの近道」でも、そんな寄集めの集団での、「暖かい」人間関係が描かれている。(追伸:大雑把に見えるアメリカ社会だけど、家族の絆は強いし、家族を皆本当に大事にして居ますよ。)

猛スピードで母は 長嶋有 文芸春秋 1/2/19 January 2, 2019

カッコ良い、お母さんだ。それも飛び切りの、カッコ良さ。そして、自分の信念を曲げない。「我が道」を行くのだけど、決して我儘ではない。離婚して、男友達だっている。結構、モテるのだ。そのお母さんが大好きな慎が、「母」の事について語る小説。「母」はいつも、猛スピードで車を走らせる。

想像ラジオ いとうせいこう 河出書房 1/2/19 January 2, 2019

不思議な、そしてとても現実的な、哀しくも、愛おしい話。東日本大震災の亡くなった方々の会話が、想像ラジオで流れるというもの。死者と生きている者とを結ぶ橋が、どこにあるのか。もしくは、ないけれど、それを心愛おしく思うのか。死者の世界って?この世界の人間が行った事のない黄泉の世界の声を、代弁してくれる小説である。人間の「想像」という力は、すごい。これこそ、人間たりうる能力で、動物にないもの。私自身、空想癖があるし、想像の世界で楽しむのが好きである。黄泉の世界の想像ラジオ、ご興味があれば、是非この本を紐解いて欲しい。

人のセックスを笑うな  山崎ナオコーラ 河出書房新社  12/24/18 December 24, 2018

このタイトルから、内容をスキッと当てられる人は、まずいないでしょう!この本は、究極の恋愛小説です。ただし、きっと「21世紀の」というのを、付け加えた方が良いかも・・・ひと昔前に、「神田川というフォークソングが、大流行しましたね。その世界感が、大きく変換して、現代版年の差恋愛という小説になった、と想像してもらえれば、良いかと思います。恋愛にルールなし。十代後半からの2年間を、一緒に過ごした20歳年上の女性。その彼女、それこそエキセントリック。恋愛を経て、成長したとか、大人になった、いう陳腐な事ではなく、「恋愛」が与える心の輝きを描いたという事だと思います。テンポの良い文体と、ページの中に見つける隙間が、素敵なコラボ!まさに、究極の恋愛小説ですよ。

美しい距離 山崎ナオコーラ  文藝春秋 12/24/18 December 24, 2018

作者の目標は「誰にでも分かる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」との事。この本、人の死を作者の目標通りに書いていると思う。私自身、今年も若い友人を癌で失った。彼女、13歳の子供を残して、この世を去って行った。「美しい距離」は、若くて、仕事バリバリの妻が末期の癌と診断され、それを夫が看取って行く話しだ。「癌」という病の持つレッテルに反発し、夫は自分達らしさ、彼女らしさを、強く求めて行く。そして、病いの妻を思うあまり、考えすぎ、空回りをしたりもする。それを妻が、逆にさり気なく、窘めたり。毎日、少しずつ「死」に向かって行く妻が、とても素晴らしく描かれている。そして、夫の深い愛情も。思わず、涙してしまう、小説ですよ。

ポトスライムの舟 津村記久子  講談社 12/24/18 December 24, 2018

本作品は、第140回芥川賞を受賞。大きな文学賞というのは、何だかんだと言って、やっぱり「本を手に取る」、大きなキッカケになると思う。若手の出発地点にもなるし、中堅の作家の、長年の仕事への集大成にもなる。「ポトスライムの舟」は、作者ご自身の経験によるらしい。美しさに焦点を当てる手法ではないけれど、文章が輝いていると思う。そして「自分だけの世界」「自分だけの喜び」から、他人を受け入れ、愛して行く過程(男女間の愛ではなく)が、自然に書かれていて、とても良い。他人に何か出来る喜び、これは「人」である事の原点、そして「幸せ」になる入り口だと思う。だって、他人の喜びを嬉しい!!と感じられれば、人生が数倍も楽しくなるから。毎日の暮らしに張りが持てないのなら、是非この本を読んで見たら良い。日々の暮らしに、これだけ素敵な事が隠れていたかを実感出来るはず!

カツラ美容室別室 山崎ナオコーラ  河出書房新社 12/14/18 December 14, 2018

いつもの言い訳ですが、海外在住の為、この作者の事、知りませんでした。。ああ、感動!1ページ目の最初の数行読んで、虜になりました。淡々としながらも、無駄のない文章運び。町の美容室を中心に、飛び切り素敵な普通の人達が、紙面を闊歩する。暴言も吐く。恋ごときもする。ご飯も食べれば、深酒もする。極々日常の時間を、ボソボソと表現。良いなあ!高円寺というと(この本の中心地点)、私にも思い出の深い場所。町の商店街仲間っていうコンセプトが、アメリカにいると、とてつもなく、懐かしく思えるもの。「故郷は、遠きにありて、想うもの」、とは良く言ったものですね!

いとおしい日々 小池真理子  徳間書店 12/3/18 December 3, 2018

小池さんは、お姿も美しく、そして文体も美しい。素敵なエッセイ集。日常を切り取り、綺麗なモザイクのように、文章にしていく。緩やかな時間と、魅力的な光の加減。この本を、さり気なくコーヒーテーブルの上に置いて見たいなあ。ちょこっとソファーに腰掛けて、本を開くと、そこは現実から離れた、桃源郷。急がずに、ページをゆっくりめくって、読みたい本である。

円卓 西加奈子  文藝春秋 12/13/18 December 3, 2018

こういう本を読むと、ああ!大阪に住んで見たいなあ、と思ってしまう。私の家は、両親とも東京出身で、大阪に親戚もいない!生粋の江戸っ子と言えば、カッコ良いけれど、そういう気っ風の良さがある訳でもない。気取らずに、サバサバと会話をして見たいものである。こっこ(主人公の女子)は、とっても可愛い。純粋だけど、納得できないことには、ガンとして戦う。そして、大家族だから、孤独に憧れ、病気に憧れ、素敵に憧れる。健気な冒険物語である。正直、私はこういう本、大好きである!