Book Reviews (マイブック評)
家族について、愛について、そう、永遠のテーマ。この本の中の一文「家族は家族であるだけでもうすでに問題点いっぱいだという事だったけれど。」。言い得て妙。そして句読点が一切ないところが、又とても良い。かなり変形な家族と、相反するようでいて実は全くそうでない、愛の濃さ。不思議さと普遍が混じり合い、独特の世界に連れて行ってくれる。心を自由に解き放ち、真実を見つめるのは、楽じゃあない。けれど、心が満たされる。
久しぶりの、ばなな本。彼女の本の魅力って、何だろうって、考える事ありません?世界各国で翻訳され、読まれている。国境を越えて、確実に共感出来るコンセプトがある。何だろう・・・って。圧倒的に女性の読者が多いとは思うのですが、女性の五感に語りかけるものがある。もう、本能と言っても良いような、ベースのところで。「語り部」調のリズムで、こちらの心にどんどん入って来る。心を捕らえられてしまう。はっきりと告白しますが、この「イルカ」も、何だか知らないうちにのめり込み、あっという間に読んでしまいました。説明不要ですね。
第135回 芥川賞受賞作。ネット生活が始まって、ほぼ20年。全てが、短いスパンで起こり、消えて行く。日本語も随分と変化した。表現方法も、コミュニケーションの仕方も変わった。そして、一番大事な自己表現というものも変わり、もちろん愛の表現も変わって来た。そういう多々ある日常の変化と、日本人の心の根底にある揺るぎないものとの共存。その接点にあるのが、この小説かなあ、と思う。なかなか、素敵だ。細切れにした日常を、とても丁寧に表現し、臨場感溢れるストーリーに。短いので、すぐ読めますよ!
ななんと!凄い感性。洒落た表現の対極にあるような、心の奥から絞り出すよう感じ。それでいて、軽やかなジョーク混じり。そして、残酷なんだけど、それが優しさ故だったりする。でも、やはり最後は「愛」なのだ。カッコなんて、つけている暇はない!テンポの良い文章に乗って、私こと中年読者も、大学時代に返って、学食を浮遊した模様。すっかり、本に入れ込んでしまいました。これが津村さんのデビュー作で、かつ太宰治賞受賞作。いやはや、余りのスゴさに、強烈なパンチを食らいました!
非常に趣向の凝った、お洒落な作品ですが、私の脳味噌では、計り知れぬ事が多過ぎて、厄介であった事も事実です。幻の本探しというテーマなのだが、4章からなるそれぞれのお話が、私の中で絡んで来ず、終始本に没頭出来ず。。。幻を彷徨いました!
大切な誰かのために心を込め祈る。その願いを叶えるため、自分の取られたくない体の一部をいろいろな方法で工作し、神様に捧げる風習。「サイガサマ」の祭りで、それが奉納される。そして時に、その奉納した工作で作った体の一部が、実際の体から、ひょこっと消えてしまう。そのため、雑賀(サイガ)町には、体の一部を失った人が時折いるという訳だ。密かに愛する人のために祈る。見返りを望まないどころか、自分の体の一部まで捧げてしまう。そして、その失った不自由な体を、淡々と受け入れる。人生の根幹に迫るようなテーマであるのだが、そこを「お隣り近所的」な物語と、親近感のある文体が、こちらの心にスーッと入ってくる。なかなか、素敵なお話しだと思いますよ!
心が芯から疲労する事。これから逃避出来た主人公百合は、ある意味幸せ。逃避が出来ずに、がんじがらめになっている人がどれだけいることか。そして、家族の問題を引きずっている人も、そりゃあ沢山いる。兄弟との葛藤、親との軋轢。何でも、ありだ。本書は、逃避旅行に親のお金で出かけた百合の、回復記というのか、解放記というものである。その中で、姉との軋轢に想いを馳せる。微妙な心の声を、全部きちんと、拾い上げていく西さんの、素晴らしい文章に、きっとのめり込んでいくはず!
ポーランド映画の”Cold War”を見た後、この究極の恋愛小説を読んだ。ああ。。やっぱり私は、日本人。全てがしっくりする。心から共感し、涙する。夏目と間島。会うべくして、出会った二人。濃密な二人だけの時間。それはとても短いものだけど、その豊かさ故に、時間が関係なくなる。”想いを馳せる時間”、何て苦しく、素敵なのだろう。是非、お薦めの一冊。
人生の一コマを切り取り、それを丁寧に描ける作家、長嶋有さん。4編の短編からなるこの本。どのお話も、もしかすると、見逃してしまうかもしれない、だけど、とても大事な、とても苦しい、だけど、とても素敵な、そんな人生の一コマを、描いている。オンラインに翻弄される時代、こういった時間空間が、とても貴重で、特別だ。オンラインの生活が普通になってしまった現在、情報も溢れ、ちょっと素敵なウェッブページも平凡になり、人は次から次へと「興奮」を求める。「自分であること」を持ち続ける大変さもあるけど、それが出来た人が人生の光を見つけて行くと思う。そういった方向性を差し出してくれる、本です。
私も日本に居た頃は、行きつけの居酒屋があって、何となく仲間が集まって、家族っぽくなったりして居た。日本的な空間というか、空気感というか、チマチマと言うと語弊があるかもしれないけど、半径10メートルくらいの中で起こる日常が、描かれているこの本。片側が5車線くらいあるフリーウエーがバーンと走っているアメリカ暮らしの中にいると、遥か彼方の物語に見える。とっても、素敵なのだけれども。日本人にはやっぱり「裸の付き合い」とか、「隣組」とか、「町内の回覧板」とか、が似合うなあ。だjけど、日本に帰国する度に思うのは、ちょこっと旅人で行くと、町はごちゃごちゃしているものの、「人間味」とか「温かみ」に触れるのは困難だと言う事。以前にも書いたけど、「故郷は、遠くにありて思うもの」とは、言い得て妙。日本の友人たちからも、「家族」の難しさについて聞かされるし・・・映画「万引き家族」然り、血の繋がりとは関係ない密な関係が、求められている時代なのだろう。「夕子ちゃんの近道」でも、そんな寄集めの集団での、「暖かい」人間関係が描かれている。(追伸:大雑把に見えるアメリカ社会だけど、家族の絆は強いし、家族を皆本当に大事にして居ますよ。)