Book Reviews (マイブック評)
95歳で書き上げたというのが、謳い文句の小説。ご本人もインタビューで、宣伝文句に95歳が強調しすぎている・・まあ、売れるためには・・などとおしゃっていますね。「作家」という職業の業というのか、ペンに命を注ぐ作家仲間の人生が、生々しく、そして、真摯に書かれています。生きることが書くこと、人生のパートナーも書くことの一部。全てを巻き込んでの、作家人生。河野多恵子と大庭みな子の両作家との交友録も、その幅の広さ、苦しさも入れた正直さに、こちらも胃が痛くなるよう。作家業に生涯を捧げた95歳の瀬戸内寂聴の叫びが、こちらにもひしひしと伝わって来ました。
物語とは言え、こんなに人から想ってもらえたら・・・と、「ラブストーリー大賞」に輝いた作品を、少女に帰ったような気持ちで読みました。沖縄の持つ不思議な魅力に、朴訥な主人公のキャラクターが絡まり、シーサーが待つ横丁を歩いているような気分に。現実味のない設定ゆえに、こちらの想像力をうんと駆り立てます。しばし、ラブファンタジーに浸りたいなら、お薦め。文章のテンポもとても良いですよ!
藤堂志津子から、これまた一転。とっても日本的だけど、スタンドポイントが、全然違う。3編の短編からなる、とても憧れてしまう恋愛小説。優しいけど、ナヨナヨしていない主人公達。文章が、自然体で、とても爽やか。3編とも、人生の苦悩を扱っているのだけど(優しい音楽ー家族の死、タイムラグー不倫と障害、がらくた効果ーホームレス問題)、それが、ちっとも重くない。重くないどころか、ダンスでも踊りたい気分にさせてしまう。それは、強さと自信なんだろうな・・そして深い思いやり。つまり、愛。瀬尾まりこさんの初めての本だけど、これからも折に触れ、他のご著書も拝見させて頂こうと思っている。
藤堂さんは、文筆業から引退なさったのでしょうか。。最近余り、お声を聞きませんね。「絹のまなざし」も他の藤堂さんのご本同様、北海道が舞台です。そして、心理描写に始まり、心理描写に終わるという、徹底ぶり。アメリカに住んでいると、「ウジウジ」するとか、「過去の事に振り回される」とか、「常に他人と比べてしまう」とか、日本人的素質が、良くも悪くも出てしまう。しかし、多くの日本人以外の人達が、日本人の繊細さとか、実直さとか、丁寧さに、憧れを持つのも事実です。「人の気持ちを慮る」というのは、日本人のとても素敵なところだと思います。しかし、それが行き過ぎると、自分を責めたり、社会と関係を持てずらくなってしまう。様々な「負」の要因が重なった主人公が、暗闇から徐々に立ち直り、自分への自信を復活させるのが、「絹のまなざし」。雪深い北海道に想いを馳せながら、ひと時「ちょっと古めの恋愛小説」など、いかがですか。
大作です。高校入試にまつわる、ヒューマニズム的観点からの問題提起に、推理小説の醍醐味、ネットの陰湿さ、三角関係まで加え、読者をどんどん引き込んで行きます。最初に、人物相関図を巻頭ページに載せて頂き、感謝致します。ストーリーのテンポの速さと、人物の絡みで、これなしには、平凡な私の頭では、筋を追っていく事が出来なかったかも・・しかし、凡頭の私ですが、最初から何故か、この人物が、「事の中心」にいるな!というのは、分かりましたよ(ちょっと自慢!)。私自信も「教育」の現場にいるので、今更ながら、ネットという巨大なパワーに翻弄されながら生きている、若者達の現状を考えました。日本の状況は分からないけれど、ネガテイブなネットの話題が出尽くし、ネットが「当たり前」になっている今、どうやって距離を置くか、どうやって「自分」を確立するか、どうやって自分の人生掴むのか、きちんと考えられる強さを持ってもらいたいものです。アメリカでは、入試に纏わる大きなスキャンダルが(大学入試に必要なテストの点を、加算する)、高所得層とセレブの間で問題になり、最近ひとりの親に実刑が言い渡されました。「入試」というのは、魔物であり、それに臨む側への、逆挑戦でもあると思います。この本の最後に、「満開の桜の花も数日経てば散ってしまう。だが、それでその樹が終わってしまうわけではない。来年も、再び花が咲く。花が咲くのは人生に一度きりではない。今年咲かなくても、来年咲かなくても、いつか必ず、花が咲く日がやってくる・・」という一文があります。今、花が咲かない状況にいる人にとっては、そんな事簡単に言わないで欲しいと思うかもしれない。だけど、花が咲く日を心の中で想う事は出来るはず。そして、そこから元気になる事もできるはず。スタート地点は、自分で作れると思う。
貴方、今大笑いしたいですか?お腹の底から、ガハハと笑いたいなら、この本、薦めます。私はこの本、誰もいない家の中で読んでいて、本当に良かった!笑いが止まらず、もう一人で悶絶。大層楽しませて、頂きました。超売れっ子作家の東野圭吾さんが、出版界をブラックユーモアで描くという手法。8つの事件それぞれに、出版の裏を最高におちょくる、目眩くストーリー。東野さんの、自信の程が窺えます。私は特に、超税金対策殺人事件、超長編小説殺人事件、超高齢化社会殺人事件等が、お気に入り。爆笑率100パーセント!小さな悩みを吹っ飛ばせ!
売れっ子作家の力を見る、大変な力作。「善意は悪意より恐ろしい。」と本の帯のところに書いてあるけど、そんな単純な事ではない本書です。そして、子供を侮るな!ということですね。そしてこんな一文もある「地に足を着けた大半の人たちは、ユートピアなどどこにも存在しないことを知っている。ユートピアを求める人は、自分の不運を土地のせいにして、ここではないどこかを探しているだけだ。永遠にさまよい続けていればいい。」心の中だけは誰にも見えない人間の利点を生かし、誰でも、表の顔と裏の顔を、上手に使い分ける。その中で、楽しいことも、涙することも、経験する。皆、少しずつの秘密を持ち、毎日を生きる。ユートピアがあるにしても、ないにしても・・偶然に、先日あるテレビ局の放送で、地方に移住する人たちを取材していたのを観た。完璧なユートピアを求める人もいたし、現実的にユートピアと向き合おうとする人もいた。皆誰でも、それぞれの「ユートピア」があると思う。
確か、テレビのドラマにもなった小説。どんどんのめり込んでしまう。私は、本を置く事が出来ずに、一気に読んでしまいましたよ!登場人物の設定が、魅力的。私もずっーーーーと前に、日本にいた頃、こんな人間関係の中にいた事がある気がする。自然に集まっちゃって、飲み会が始まっちゃうみたいな。その中で、恋愛もどきも産まれる。若いって、本当にすごいね。年齢重ねた現在、良いも悪いも、自分の肩にかかるものが多すぎて、「ちゃって」みたいな状況になるには、大変な努力が必要なんです。もう、全く!「野バラ荘」での、人生絵巻が、殺人となり、Nへの想いになって行く。はっきり言って、面白いですよ、この本。そして、人は一人では生きていない。生きられない。
浅田次郎さんの小説は、いつも涙なしには読めない。この本も例外に漏れず・・・こういう「良い本」を読むと、正直に人生って何だ、って心底考えさせられますね。一人一人の人間に与えられた人生の長さは、人それぞれ。だけど、一回だけ。求めるものも、価値感も、違うかもしれない。だけど・・・死に行く時に、何を思うのだろうか。私の人生の中でも、色々な「死」を見て来た。天寿を全うした人。心半ばで、悔いを残しながらこの世を去った人。若くして、自ら命を絶った人。本当に様々だ。死に行く時に、今まで思って叶わなかった事が、想いとなって出てくるのだろうか。それは、誰にも分からない。この本の中から、いくつか心に残った文章。 「・・健康診断を受けるたびに、高コレステロールだの高脂血症だのと言われるが、この薬も直ちに捨てる。どうも同じことを言われて同じ薬を嚥んでいるやつが多すぎる。みんなが同じ症状ならば病気ではなく、それが正常であるはずだから、病院や医者の都合だろうと永山は読んでいた。・・・」まさにそう!!! 「退屈はいいものだ。どうでもいいことを考える時間。非生産的な、思考と想像の時間。かつて人類は、豊かな閑暇を持て余して生き、そのまま優雅に死んで行ったのだと思う。それがいつのころからか、どうでもいいことを考えるのは怠惰とされ、非生産的な行為を排除し、自由な思考と想像を封止して生きるようになった。いくら寿命が延びたところで、そうした人生は短く、その死は貧しいものであるにちがいない。」言い得て妙。まさに同感。 「男と女のドロドロの話なんて、面白くない。それよか、「他人のような気がしないケース」のほうがずっとロマンチックじゃん」本当にそう・・・・ 長編ですよ。だけど、とっても読み応えがありますよ。是非読んでみてください。
何故、今頃、夏目漱石?と思われる方もあるかもしれないですね。町田康さんの文章に、夏目漱石絶賛!があったので、今回の旅に持って来た訳です。フランスで読む、漱石。それだけで、洒落ていると思いませんか?私は、漱石の文章の新鮮さに、とても感動しています。まさに、日本現代文学の布石を築いたのだなあと、実感しています。発想、文章の切れ、テンポ感、ユーモア、写実性、もう全てが、飛び切りカッコイイ!多くの人に愛読されている訳です。1906年作で、創作されてから100年以上経っているはずなのに、ヤンチャ話を近所の若者(!)から聞いているよう。愛に溢れ、人情に溢れ、正義感に溢れ、とても熱い小説です。是非、お手に取ってみては?