Book Reviews (マイブック評)
私の大ファンの三浦しをんさん!古ぼけた洋館が舞台なので、世田谷の祖父母の昔の家を思い出しながら、読んだ。もちろん、祖父母の家はとっくの昔に建て替えられたけど、この本の洋館は、今でも建ち続けている。問題はあるのだけど・・”世間”と隔絶されたところで、その不思議な4人の暮らしは営まれている。正式に言えば、4人と一老人・山田(離れに何故か、住んでいる)だ。文章の旨さは、格別な三浦さん。こんな文章がある。「自由と独立と己れとに充ちた現代に生まれた我々は、その犠牲としてみんなこのい淋しさを味わわなくてはならないでしょう。」この文章にガーンとやられる貴方は、是非この本を読むべきです。毎日同じバスに一日中乗り続ける老人に、「おじいさんの行動の圧倒的な無為、けれど無為からしか生じぬ覚悟のような感じ、さびしさともうらやましさともつかぬ思いがきざしたためだ。」これも良い。同居する、一見能天気に見える多恵美が、「子どもの時のほうが、死ぬってことを考えて眠れなくなったりしませんでした?」これも同感。他にも、沢山引用したい文章があるけれど、兎に角この本読んでみてください。ゆっくりとした時間の中で、四人がそれぞれに個性を発揮しつつ、お互いを緩やかに尊重、心の裸の付き合いを始め、同居物語が流れて行く。河童のミイラが出てきたり、カラスの善福丸が喋ったり。お伽話も織り込んだ、心に響く一冊だ。
香港を取り巻くアート、そして、「アノニム」と言う不思議な団体のお話。「ルパン3世」を思い起こす、漫画小説風。なかなか、お洒落で、エスプリが効いている。この本の最後が、学生の抗議集会でアーチストの観点からスピーチし、抗議行動が沈静化した、ハッピーエンド。しかし、何と皮肉なことか、実際の香港は、今年の6月から政府に抗議する学生中心のデモ活動で、大混乱を極めており、全く終息の気配もない。私が参加する予定だった香港の国際音楽祭は、デモ隊と警察との衝突で大変危険なため今夏延期となり(別に予定されていたコンサートは中止)、来月中国で開かれることとなった。観光客は激減だろうし、この本の目玉でもある、新しい美術館の建設なども、どのようになっているやら・・超現実と、実際に存在する現代美術の絵画を合体させた、お洒落なストーリーだけど、現実の香港がひどい状況なので、いまいちインパクトがないかも・・
大変な力作です。植物に生涯を捧げる学者達のお話。いつも一貫して思う事。どんな事でも良い。生涯をかけて打ち込めるものを見つけた人は、幸せです。私は心からそう思います。「寝食忘れて」何かにのめり込めるのは、幸せの極みです。それが、この本の場合、植物。それも、ミクロの世界の学者達のお話。他の人にとっては何でもないことが、のめり込んでいる者にとっては、天下分け目の合戦です。長い間の研究で探し続けていたものが、見つかった時。音楽でいえば、何回弾いてもしっくり来なかったフレーズが、ある日急にドドドーンと心に響いて来たり。まあ、そういった「他の人にとってはどうでも良いことに、熱中できる幸せ」かなあ・・植物と人間の関係が、沢山出てくる中、この一文がとっても良かったので、抜粋しますね。『翻って人間は、脳と言語に捕らわれすぎているのかもしれない。苦悩も喜びもすべて脳が生み出すもので、それに振りまわされるのも人間だからこその醍醐味だろうけれど、見かたを変えれば脳の虜囚ともいえる。鉢植えの植物よりも、実は狭い範囲でしか世界を認識できない、不自由な存在。』ビバ!超植物恋愛小説!
出だしは、どういう人間関係なんだろう??と、沢山疑問符が浮かぶものの、それを突破すると、わあーーもう、瀬尾ワールド。ギャハハと笑ったり、ちょっと涙ぐんだり、頑張れ!と密かに応援したり、「分かる!その感じ。」と一人ほくそ笑んだり、まあ、読者を引っ張ってくれます。合唱祭前夜の父娘の場面は、圧巻の一つ。もう、完璧に泣いてしまいます。そして、第二章(とても短い)のエンデイングに向かっての盛り上がり。そして、最後にこれしか終わり方、やっぱりなかったよなあ。と、涙拭きふき、本を閉じる。とても非日常の設定だけど、人間にとって、「何が大事か」を、とことん教えてくれる本です。毎日は忙しい!そして、私達の社会には、守らなきゃいけないルールも沢山ある。現実から目を背けることは出来ないし、もしかして、上手く時流に乗って賢くやれる人達が、「勝ち組」と呼ばれるのかもしれない。だけど、この本の主人公「優子」の半生(まだ20代前半なので)と、雨宮さんのこと、泉ヶ原さん、梨花さん、のこと、思い出すと、何か、迷っている時に、道が見えるかもしれない。どんな世代にも、お薦めの本ですよ。
サロメの世界に浸ったここ数日。フィクションなのだけど、何だか自分もロンドンの町を闊歩して、オスカー・ワイルドや、ビアズリー姉弟とサロメを語っている感じ。強烈な小説である。オスカー・ワイルドの小説を読んだことがなくても、オーブリー・ビアズリーの挿絵は見たことがあると思う。一度見たら、決して忘れないサロメのイメージを、深く我々の中に残す空恐ろしい絵の数々。特に、サロメがヨカナーンの首を持っている絵は(この本の表紙にも使われている)、不思議な笑みが狂気の世界を映し出す。サロメを中心に、芸術に突進するオーブリーの才能と、それを支える姉のメイベル。ワイルドを取り巻く人間関係と、当時のロンドンの街が、独特の世界観で書かれた原田マハの力作。
再び、湯川、草薙、内海のコンビで、町の人気食堂の看板娘の失踪、殺害の謎に挑む。複雑に絡む復讐劇と、20年前から続く怨念の事件。狂気に狂った殺害者の背景から、今に至るまでの殺人記録。将来を嘱望された娘が殺害されなければいけなくなった経緯を、湯川の頭脳で紐解いて行く。殺人者は特定されているのに、何故かそこに手が届かない。そして、最後のどんでん返しのドンデン返し。いつもながら、東野さんは、我々の気持ちを捕まえて、最後のページまで、ハラハラ、ドキドキで読ませてくれる!
アメリカ中西部には頻繁に行くけれど、まだこの美術館には足を向けたことがない。チャンスがあれば、是非行ってみたいと思う。まさに、美術館とそれを愛して止まない人達の、「奇跡」のお話し。原田さんのアート愛が、ひしひし感じられる一冊である。一枚のセザンヌの絵を巡って、お話しは始まり、終わる。本の表紙にその絵、「画家の夫人」があり、我々読者に、語りかける。様々な人の絵に対する、解釈、思い入れが章ごとに描かれ、我々読者も深く絵の中に入って行く。読み始める前に見た「画家の夫人」と、読後に見た「画家の夫人」は、心なしか違う人のようにも見える。一枚の動かない「絵」が、こんなにも雄弁であるとは・・
私の中では、この本は「Best of 2019」。余りの魅力に、今でも私の頭はクラクラ!このスピード感。お洒落なチャラ感。超どでかい才能とそれを受け入れる愛。激しい思い込みと、集中。アートを愛して止まない、原田マハさんの、渾身の一作だ。現実に東京であった展覧会と原田さんがこの本を執筆なさったパリの「idem」。設定も素敵だし、本当に飛んでいる!私もフランスには、親しい友人もいるし、割と行っているし、何だか他人事とは思えない。わあ・・・心ごと、鷲掴みにされた私。最高!
「父さんは今日で父さんを辞めようと思う。」という冒頭の一文。どう思います?淡々と言わせているけれど、実はとっても深くて、重い。ここに至るまでの、「父さん」の葛藤いかに!そしてもちろん、次のページに「父さんを辞めるってどういうこと?」という娘の言葉が続く。この本は、この大きくて、でもどこにでも転がっている、基本的な役割から自由になること。そして、不自由になること。そして気持ちの伸縮性というのか、自分感というのか、つまりは、「愛」に完結される、と私は思うんです。素敵な本ですよ!
望郷という言葉から自然に浮かぶ、暖かな想いと裏腹に、その奥底に潜む様々な状況を、時にはダイナミックに、時には切なく描く。そして、最後のどんでん返し。誰もが予想もしなかった(多分!)展開に驚くも、そうか・・と納得。全てのパズルが、はまるところに収まる。凄腕の書き手、湊さんの秀作だ。