Book Reviews (マイブック評)
こういう小説を読むと、日本独特のコミュニティにホームシックを感じる。奥田英朗さんは、私の大好きな作家だが、最近手に取るチャンスがなく、久しぶりの「奥田節」を堪能。札幌から車で一時間くらいの小さな町、苫沢町が舞台で、この町で起こる人間ドラマが、「向田理髪店」店主の向田康彦目線で、語られる。この町の人達は、老若男女、清濁併せ呑む。人の助け方を知っている。人の愛し方を知っている。でも、私の住む巨大なアメリカにも、こういう素敵な人達がいることも、私は知っている。
スピノザの診察室は、現役の医師が、厳しい医療の現場を、温かく、かつ現実的に、そして静かな語り口で書いた、我々を導いてくれる物語である。カッコ良い「医師像」は、出てこないかもしれない。日々の患者との、さりげないやりとり。患者の最後に立ち会う、静かで、でもとてつもなく大きな心。淡々と、医師道を全うする、マチ先生。雄町哲郎(マチ先生)の独り言のような、この一言が私の心を打った。 ー理屈の複雑さは、思想の脆弱さの裏返しでしかない。突き詰めれば「生きる」とは、思索することではなく行動することなのである。ー マチ先生と人生の最後の時間を共に出来る人は、幸いである。
It is one of the few books I have read in both Japanese and English. I am a big fan of Keigo HIgashino, and I would say I have read most of his books in Japanese, including this book. Higashino has been one of the leading authors in Japan, especially in the mystery category. He […]
I enjoyed reading his essays. Stephen Hough is one of the leading pianists, performing about 80 concerts a year in prestigious venues and collaborating with amazing musicians. And he writes, composes and paints! He writes mostly around music in this book from the viewpoint of a musician. Of course we have to remember his extraordinary […]
私は、いったん一人の作家に傾倒すると、その方の本ばかりを読んでしまう癖がある。町田そのこさんが、私にとっての「今」の作家になる。今日ご紹介する3作とも、とても読み応えがある!「宙ごはん」は、食をめぐって、家族(血が繋がっていても、いなくても)のしがらみと優しさを、それは素敵に描いている。育ての親(ママ)と産みの親(お母さん)との関係、そこに凄腕シェフの佐伯さんと、優しい微笑みが紙面からも伝わってくる家政婦の田本さん。佐伯さんは、凄みの効いた顔に、髭面だ。登場人物が、紙面から飛び出してくるように、生き生きしているのも、町田さんのご本の特徴だ。人生には、いくつもの正解がある。規制の観念に囚われる恐ろしさ、そしてそれを守る故に大事な幸せを逃している人。沢山、いると思う。この本を是非読んで頂きたいです。一度、頭をまっさらにして、主人公、宙ちゃんになってみては? 「夜明けのはざま」、この本は優しい口上で、どんどんと私達の心に切り込んで来る。楓子、なつめ、サクマの3人の女性、最高の友人達だ。この3人が、様々な道を辿り、お互いを分かり合おうとし、時には強烈に批判し、人生を切り開いていく。まさに、女の戦場だ。自分に正直であろうとすると、いつも道は険しい。険しさを選ぶのか、それとも自分を殺すのか・・この3人を取り巻く男性軍は、時には大袈裟すぎるテライがあるけれど、これは小説だ!それで、よし!「自分に正直であること」、これは、時には周囲に迷惑をかける事もある。いろいろ考えさせられる、小説だと思う。 「あなたはここにいなくても」は、短編集。それぞれの短編が、とても大事な人を語っている。その大事な人の事を考える事によって、今の自分に立ち返る機会をもらっているのだ。人はいつも強い訳ではない。でも、必ずどこかに強さを持っている。意固地になる事もあるし、わざと大事なものから目を逸らす事もある。我々は、一筋縄ではいかない。だから、人間やっているのは楽しい。時には、破茶滅茶にもなるし、しとやかな令嬢にもなる。それが、人間だ。短編のどこかに、我々が探している答えが見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。是非、お読み下さい。
素晴らしい本と作者に出会った。前回の日本帰国の際に立ち寄った、「青山ブックセンター」で私を誘ってくれた本だ。品のある美しい文章が、強さと繊細さの間で、綴られている。よく気に入った風景を写真に撮ると、自分の目の前にある風景と全然違ってガッカリする事がある。ミラノの街角、ヴェネツィアのホテル、鬼藤の叔母さんの着物、寄宿学校のシスター・フォイ・・・描かれている風景そのものに、私を連れて行ってくれる。文章の中に風景が映り込んでいるのだ。 ほんの一握りの人達しか経験出来なかった、1950ー60年台の海外生活。その経験を、洗練された文章と語り口で、我々に話しかけてくれる。これは、エッセイだけど、ノンフィクションではないと思う。高度な「小説エッセイ」だ。第二次大戦から80年が過ぎ、我々日本人の暮らしは大きく変わった。SNSが猛威を振るい、日本経済は低迷。そして少子化・・須賀敦子の世界と正反対にある社会で暮らしている。 我々の日々の暮らしに起承転結はなく、ほとんどの場合、結果もない。淡々とした時間の繰り返し。彼女が見ていた心風景、私の心にもそっとしまっておきたい。
初めて手に取る作家の本です。ミドルエイジ(化石となった言葉でしょうね)の夫婦。ちょっと成功している人気作家の夫と、美容院経営の妻。夫は、忙しく「人気作家」をやり、若い編集者と浮気。妻は、離れてしまった二人の心を憂いつつ、自分から近づいて行こうとはしない。そんなありきたりの日常が、突然のバス事故で妻を連れ去り、180度変わる。しっかりものであった妻が、夫の日常から消えるのだ。紆余曲折し、夫の「妻探し」、そして擬似家族体験が始まる。「素敵」な擬似家族体験。わー、良いなあ・・と読者を涙目にさせつつ、そこは作家の妙。涙が渇かないうちに、そんなの幻想だよ!、と我々を現実に戻らせる。そして、最後の一行で、本当の涙がこぼれる。テンポ良し、文章のキレ良し。この作家、又読んでみます。
むかーし、吉祥寺とか、下北沢とかを、闊歩していた頃を思い出した。時間に急かされるでなく、将来の事を深く考えるでもなく、「若さ」で生きていた時代の話しだ。そんな時代が、誰にでもあると思う。私にもあった。そして、それが許されていた、というか、それだけで、夢中になっていた時代だ。「無駄」とか「損」という言葉と縁遠い話しである。井の頭公園の蝉の声が、聞こえてきそうな小説。そんな、東京の片隅で起こった、熱くて真摯な恋愛小説である。
日本滞在中に買った本。川上未映子さんの本は一度も読んだことがなく、今回初めて。文章にキレがあって、かつとてもスムーズだ。言ってみれば、とても自然体で、しつこくない。重いテーマなのに、それを感じさせずに、何故か主人公の生活の中にしっくりと溶け込んでしまった。子供を持つという事を、こういう観点から描いた小説は、他にないのではないだろうか。強く、でも肩肘張らずに、自分ときちんと向き合う夏子。愛に溢れている夏子。病気で床に臥せっている時に、何故かズンズン読み進めた一冊である。最高にカッコ良い夏子に大拍手!
東野さんの御本は、もう数えきれないくらい読んでいるけれど、一度として失望した事がありません。この本も、マスカレードのシリーズですが、なかなか面白いですよ。テンポが良く、登場人物が生き生きとしています。もちろん、推理小説ですから、謎も二転三転としながら、自分もホテルの宿泊者になって、犯人探しに加わっているような気分になります。東野さんの小説は、必ず「人間」を描いています。マスカレード・シリーズも、華やかなホテルを舞台に、人間模様が展開するとても面白い小説だと思います。是非、お読み下さいね!