Book Reviews (マイブック評)
ヴェネツィアの宿 須賀敦子 文春文庫
April 9, 2025
素晴らしい本と作者に出会った。前回の日本帰国の際に立ち寄った、「青山ブックセンター」で私を誘ってくれた本だ。品のある美しい文章が、強さと繊細さの間で、綴られている。よく気に入った風景を写真に撮ると、自分の目の前にある風景と全
ほんの一握りの人達しか経験出来なかった、1950ー60年台の海外生活。その経験を、洗練された文章と語り口で、我々に話しかけてくれる。これは、エッセイだけど、ノンフィクションではないと思う。高度な「小説エッセイ」だ。第二次大戦から80年が過ぎ、我々日本人の暮らしは大きく変わった。SNSが猛威を振るい、日本経済は低迷。そして少子化・・須賀敦子の世界と正反対にある社会で暮らしている。
我々の日々の暮らしに起承転結はなく、ほとんどの場合、結果もない。淡々とした時間の繰り返し。彼女が見ていた心風景、私の心にもそっとしまっておきたい。