Book Reviews (マイブック評)
リーチ先生 原田マハ 集英社
May 18, 2021
2013年から2015年にかけて新聞連載された、大長編。イギリス人で陶芸家のバーナード・リーチが、どれだけ日本を愛し、そして日本の芸術家達に影響を与えたかという、史実に基づいたフィクションである。原田マハさんのお得意とする、架空の人物<沖亀乃介・高市親子>を、歴史上の大芸術家<バーナード・リーチ>と出会わせ、その軌跡を追う筋書きだ。明治後期から昭和にかけての、日本陶芸シーンを、事細かに描写している。そして、大物芸術家達、柳宗悦、富本憲吉、河井寛次郎、濱田庄司、高村光太郎らが、リーチを慕い、影響を受け、その輪の中で切磋琢磨して行った。バーナード・リーチの類い稀な行動力に翻弄されながらも、彼を師と仰ぎ、助手として働き続けた亀乃介。そしてその子供高市も、陶芸家になり、リーチに出会う。100年前の人達の方が、国境というものを恐れず、柔軟にそして貪欲に、知らない世界のものを吸収して行った様な気がしてならない。インターネットで狭くなった世界が、逆に頭を固くし、心の柔軟性を奪っているのではないだろうか。そして、「炎上」を恐れるあまり、自分の心の声を、自由に発言する自由も失った気がしてならない。素晴らしい、歴史的フィクション。ネット社会から少し距離を置き、是非読んで見て下さい。