Book Reviews (マイブック評)

愉楽にて  林真理子 日本経済新聞出版社

March 12, 2021

当代きっての売れっ子作家、林真理子さんのご本が面白くない筈がない。この小説は、日本経済新聞に連載されたもので、ミドルエイジのお金に全く困らない男性達の、良くも悪くも女性遍歴である。沢山の引き出しをお持ちの林さんが、日本経済新聞への連載に、敢えてこの題材を選んだ事に、私は本の内容よりも興味がある。日本経済新聞を、大きな社長室で秘書が入れたコーヒーを飲みながら読む社長さんもいるだろうし、運転手付きの車での通勤途中に読む方も勿論いるだろう。世の中には、起業し大成功している方もいるし、IT関連の若い旗手達も多い。しかし、混雑した通勤電車の中で、又は、子供達が騒ぐ朝の食卓で、新聞を開く方もいる筈。そういった幅広い仕事人達が読むだろう新聞への連載に、お金に糸目をつけない暮らしをしている男性達の小説。ある意味、現実味の全くない世界だ。逆に、現実味のなさに、自分達の世界を忘れ、遊ぶという事なのだろうか。羨みとちょっとした僻みも込めて。海外と日本を、ファーストクラスでフラッと行き来する暮らし。ちょっとした弾みで、京都の芸妓さんと関係を持ち、旦那になる話。レストランを簡単に貸し切り、豪遊する話。どれもこれも、「普通」の人達が経験する事ではない。この連載小説への読者の反響というのも、大変興味があるところだ。