Newspaper Essay Series (新聞エッセイ)

2012 Newspaper Essays 新聞掲載エッセイ

December 31, 2012

第50回 2012年4月10日

春風いっぱいの、ロスアンジェルス
4月も半ばを過ぎ、ここロスアンジェルスはすっかり春。朝晩は冷え込むものの、日中は暖かな日差しが嬉しい毎日です。又、窓を開けると、鳥のさえずりが日がな聞こえ、中々楽しいものです。さて、長期に渡って連載させて頂いたこのエッセイも、今回50回目を持ち、一区切りつけることとなりました。音楽がご縁で、小野会長とお知り合いになり、紋別にお邪魔させて頂き2度演奏する機会を頂きました。それをきっかけに、ロスアンジェルスから身の回りの事など、お手紙形式で、皆様にお伝えしてまいりました。毎回違った観点からお話しさせて頂ければと、いろいろな事を書いてきたつもりです。最後の回は、やっぱり音楽の事で締めくくらせて、頂きたいと思います。

今までにも、室内楽(二重奏、三重奏、四重奏など、少人数のグループで一緒に演奏すること)の楽しみについて触れてきましたね。そして、息の合った演奏が出来たコンサートでは、音楽をする喜びを再びのように実感出来るという事も、折に触れてお知らせして来ました。4月前半に、4つの(語呂合わせみたい!)違ったグループでの演奏会がありました。最初は、クラリネット、チェロ、ピアノの三重奏。これは、ブラームスの後期の作品で、とてもしんみりと、美しい旋律に溢れている作品です。そして楽器間の気持ちの通わせ方が、演奏する上での大きなポイント。ロスアンジェルスの名所にもなっている、ディズ二―・コンサート・ホールでの演奏会で、仲の良い仲間ととても良い音楽が作れました。次は、トランペット、歌、ピアノのコンサート。これは、トランペットとピアノの二重奏、歌とピアノの二重奏、そしてその中間に、トランペット、歌、ピアノの三重奏が入った、楽しい趣向の演奏会。教会でのコンサートで、その響きが大きな空間を埋めつくし、気持ちの良いものでした。夕方から夜にかけて、教会内の光の加減が変化していくのも、雰囲気があったと思います。三つ目は、フルートとピアノの二重奏。これは、ロスアンジェルスの北部にある大学内のホールで演奏しました。現代曲、バロック、有名なカルメンの主題による変奏曲、そしてラテン系の曲も入ったバライティに富んだプログラム。日本での音大時代から、フルート奏者の方々とは頻繁にご一緒させて頂いているので、フルートの方と演奏する度に、何だか古巣に戻ったような気がするのは、不思議ですね。そして、最後がトロンボーンとピアノの二重奏。2曲はピアノの伴奏なしの作品で、その間私はしばしの休憩!このトロンボーン奏者とは、ここ10年くらい共演しているので、家族ぐるみの友人で、毎回一緒に演奏させて頂けるのを、楽しみにしています。この最後の演奏会があったのが、昨日の日曜日。今日月曜日の朝には、次の演奏会にむけて、新しいリハーサルが始まりました。

週に3日大学でピアノを教え、週末家でプライベートの生徒を数人教え、機会を頂ければ演奏をするという毎日です。音楽家としていくつまでこうした生活が出来るのか分かりませんが、出来るだけ長く、音楽家暮らしを続けられれば、と願っています。人それぞれ好きな事も、向いた事も違いますが、私は現在良い生徒達に恵まれ、演奏の機会も頂いていることを、本当に幸せなことだと感謝しています。過去には、どんぞこ暮らしも、苦労だらけの時もありましたが、そこで踏ん張れたから、今があるのでは、と多少(!)自負もしています(最後まですみません)。 長い間、お付き合い下さいまして、本当にありがとうございます。機会があれば、是非紋別を再び訪れてみたいですね。そして雄大なオホーツクの海を感じてみたいです。もし私の今後にご興味があれば、ホームページを覗いてみて下さいますか(www.junkopiano.com)。皆様どうぞお元気で、益々のご活躍を願っています。

第49回 2012年3月20日

震災から一年
3月も後半に入り、紋別の気候はいかがでしょうか。こちらは、暖かくなったり、雪や霰が降ったりと、落ち着かない天気が続いています。しかし、我が家の庭にあるオレンジとグレープフルーツの木には、沢山花が咲き、とても良い香り。特に夜露の中で、その香りは抜群です。新芽を見つけたり、早咲きの花を見ては、新しい季節の到来を、感じています。

震災一年の節目で様々な行事がロスアンジェルスでも行われました。私も、被災地の事を忘れないで!皆で応援しよう!と、声を大きく、支援の輪を続けていきたいと願っています。「支援」とは直接つながりませんが、今月初旬に、国際交流基金からの後援で、日本の音楽のコンサートをここロスアンジェルスで開催致致しました。今回は、日本の文化の特徴とも言える、他国の文化を輸入して、吸収、消化して、自分のものとして、新たに海外に輸出するというコンセプトで、プログラムを組んでみました。このプログラムは今までに演奏してきた、日本音楽コンサートを一歩前進させたものです。戦国時代に、日本人が見た初めての西洋人(嵐で流れ着いたポルトガル人船乗り)から始まり、その後にスペインから来たキリスト教の伝道師達、それと一緒に入って来た教会音楽が私達にとって始めての西洋音楽であった事。しかし、最初の西洋文化の芽も、その後のキリスト教禁止、鎖国政策で、日本の国から追い出されてしまいます。そして、約250年の時を経て、明治維新とともに、急激な西洋化が進みました。音楽もこの西洋化の大きな一つで、外国人音楽教師を招き、1880年に日本で始めての音楽学校が設立しました。そこから巣立っていったのが、滝廉太郎であり、山田耕作なのです。この第一、第二世代の日本の作曲家達は、日本政府の奨学金で、ドイツへ留学。こうして、日本の音楽教育はドイツロマン派音楽、一辺倒で始まりました。又、ドイツ音楽とは全く関係ないのですが、当時の作曲家が好んだのが、日本独自のヨナ抜き音階で、この音階から日本独特のメランコリーが生まれました。その代表が、「荒城の月」ですね。しかし、1930年くらいから、次第にフランスの印象派の影響を受けるようになり、そのころの作曲家達は、印象派の音と日本の音を旨く融合させた音楽を書くようになります。そして、第二次世界大戦後は、日本の音楽教育も進み、日本人演奏家達が、だんだんと国際舞台で活躍するようになり、大きなコンクールにも入るようになりました。そして、様々な音楽のスタイルが生まれ、日本の作曲の世界も多様になったのです。武満徹は、その中でもとてもユニークな存在。ほぼ独学で作曲を学び、その時代の他の作曲家のほとんどが海外で学んだのに反し、日本国内に留まり自分の音楽のスタイルを築き上げました。その彼が、海外の大きな音楽団体から委託され、多くの素晴らしい作品を残しました。そして、国内、海外を問わずに、世界の音楽をリードする坂本龍一、ゲーム音楽で活躍する植松伸夫など。日本の音楽は、いろいろなメデイアと融合しながら、地球規模で発信していくようになりました。

時代を追いながら、その時代の音楽を演奏しつつ、お話もしながら、コンサートを進めました。アンコールに、植松伸夫の美しい曲を弾き、震災で犠牲になられた方々に捧げました。お客様の中には、涙ぐんでいらした方もいらっしゃいました。コンサートは、好評を頂くことが出来、日本の音楽に留まらず、日本全般に渡って知って頂く事が出来たように感じています。日本の事を好きな外国の方は多いですよ!そうした方がどんどん増えるように、又日本の事に興味を持って頂けるように、こういったコンサートは生涯続けていきたいと、思っています。 今回はこの辺で、お別れです。4月に又お便り致しますので、皆様どうかお元気で、お過ごし下さいませ。

第48回 2012年2月15日

フロリダでのコンサート
早いもので、2012年も2月半ばに。皆様いかがお過ごしですか。いまごろ、紋別は極寒でしょうか。こちらロスアンジェルスは、寒い日はあるものの、しっかり春の息吹きが感じられるように、なりました。写真は、近所のスイセンで、今満開。とても良い香りです。

私は先日フロリダ州のタンパ市に、コンサートで行って来ました。以前からお話しているように、アメリカは広い!ので、西海岸のロスアンジェルスから、東南に位置するフロリダまで行くのは、とても時間がかかります。そして、3時間の時差があるので(フロリダがロスアンジェルスの3時間先をいっています)、まさに一日がかりです。今回は長旅に備え、2冊本を持っていきましたが、飛行機の中でお気に入りの音楽を聴きながら本を読んでいると、時間もあっという間に過ぎていくようでした。フロリダは、寒い地域に住む人達が、退職した後に、温暖な気候を求めて、移り住むところでも、有名です。もちろん、海が近いから、それを求めて移住する人達もいますがーー。私が行った1月の終わりでも、少し蒸し暑く、コンサートホールは、冷房を使っているほど。全く驚きですね。コンサートのプログラムは、今シーズン演奏しているバッハのゴルトベルグ変奏曲でした。この曲の持つ特別な意味合いについては、以前お話ししましたが、フロリダでも、聞いて下さったお客様から、その崇高で、奥行きの深い音楽について、お声が聞かれました。演奏する私自身も、普段の演奏会とは全く違った空間に包まれます。もちろん準備が大変ですが、やはり満足感も大きく、やりがいがあります。こうした演奏旅行に行くと、新しい方々との出会いがあり、昼食、夕食をご一緒したり、車の運転をして頂いて車中でお話ししたりと、楽しい時間が嬉しいものです。帰り際に、ホテルで朝食を取っていて、バタバタしてしまい、着ていたセーターを席に忘れ、後から送って頂いたのも、この新しい出会いのお陰でした。

このフロリダでのコンサートと時を同じくして、新しい春の学期が始まり、大学の方も一機に忙しくなりました。教える楽しさは、それぞれ全く違う生徒達に、それぞれに合ったやり方を見つけることでしょうか。それが出来ると、生徒の才能や能力の違いに関わらず、力を伸ばして上げることが出来るような気がします。私の経験を伝えることは大事だけれども、押し付けは禁物ですね。これが出来る限り、私は教える事を、生徒達を、愛することができると信じています。

この春から夏にかけては、主にロスアンジェルスでのコンサートが主体で、様々なプログラムに取り組んでいます。その辺のことは、次回のお便りでお知らせすることに致しましょう。それでは、皆様どうぞお元気で。又、このお便りを通じて、お会いしましょう。